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48.危行


 俺は未だ追跡をしていた。

 その怪しきローブの人物を。


 そして目的地についたのかようやく足が止まる。


「……ふむふむ、なるほど。ここが例の……」


 ローブの男はまたもブツブツと独り言を言い始める。

 そして再び辺りを念入りに見渡すと、


「周りには……敵影なし。いよっっし!」


 と、何やら意味不明なガッツポーズを決める。


 ここは演習場入り口からグルっと回って反対側にある別棟。

 その別棟と特別棟を挟む壁付近に俺たちはいた。


 特別棟とはシャワールームや男女離別の更衣室などがある施設のこと。

 演習場に隣接しており、主に訓練中の者が使用を認められている場所だ。


「時間は……うむ、計画通りだ」


 どうやら今のところいい感じに事が進んでいる様子。

 俺がそのすぐ背後で目を光らせているとも知らずに。


「さて、早速始めるとしよう」


 ローブの男はそう言うと別棟と特別棟を分ける外壁の前に立つ。


(……何をする気だ?)


 と、次の瞬間。

 ローブの男は壁の溝に手をかけると、スルスルと壁をよじ登り始めた。


(あ、あいつ……!)


 しかもかなり早い。

 外壁は不法侵入を防ぐためにかなり高めに設計されているのにも関わらず、ローブ野郎はそんなことなどおかまいなしといった感じ。


 ちなみに壁の向こうにある特別棟は入り口付近のセキュリティこそ万全だが、外壁から侵入するとなると話は別。

 ただこの聳え立つ巨大な壁をよじ登れれば……の話だが。


「どうやら壁登りは得意なようだな。よし……」

 

 俺は背後からそっと壁を登っていくローブ野郎に声をかける。


「おい、お前そこで何をしている!」


 ……と、大声で一言。 

 するとローブの男はマズイと思ったのか身体をビクッとさせる。


 だが、その挙動で溝にかけていた足を滑らせてしまい……


「……あっ、やば」


 そのまま垂直落下。

 地面へと叩きつけられる。


「い、いってぇ……!」

 

 男は俺の目の前で思いっきり背中を強打。

 そして唸り声をあげながら、悶え苦しむ。


「お、おい……大丈夫か?」


 一応、心配になったので一言声をかける。

 すると男は俺の声に反応し、ローブで隠された顔を不意に上げると、


「そ、その声……まさかシオンか?」


「ん? どういうことだ? 何故俺の名前を……」


「や、やっぱりシオンか。オレだよ、オレ!」


「いや、だから誰だよお前」


 ローブを着ているので容姿は分からない。

 でもこの声、どこかで……。


「あ、そうだった。今は身元を隠すためにローブ(これ)を着てたんだった」


 男はローブの存在に気づき、何も言わずにサッと脱ぎ始める。

 

(こ、こいつ自分から身元を……)


 何も躊躇なくローブを脱ぎだす謎の人物。

 初めは驚いたが、脱衣後のその姿を見た途端、その謎は一気に解けていった。


「……これで分かるだろ?」


 露になる容姿。

 それは長身でイケメンで広い肩幅にガッチリとした肉体を持つ、THE漢といった風貌。


 そして、この俺が一番よく知る人物だった。


「ゆ、ユーグ……!?」


 咄嗟に出てくるある人物の名前。

 その不審者の正体は友人であり、勇者軍の同期……ユーグ・フリードマンだったのである。



 ♦


 

「はっはっはっは! まさかつけられてたとはな。流石はシオン、全然気づかなかったわ」


 見つかったというのに豪快に笑い飛ばす我が友人。

 逆にあの姿が目立つってことに気がついていないことに違和感を覚える。


 が、今はそんなことはどうでもいい。


 俺が一番聞きたいのは……


「そんなことよりもお前こんなとこで何をやってるんだ? なんでわざわざ()()()()()を……」


 俺はユーグに身元を隠していたワケと不審な行動について言及する。

 ユーグは少し深刻そうに眉を歪めると、手始めにある願いを言ってきた。


「……シオンよ、これから話すことは決して誰にも言ってはならない。それが約束できるならお前にだけ特別に話そう」


「そんなに重要なことなのか?」


「ああ、他言無用だ。約束できるか?」


 何時にもなく真剣な表情でそう話すユーグ。

 これは何かある。いつものユーグにしては珍しい顔だ。


「……分かった。誰にも話さない。約束する」


 今まで苦楽を共にしてきた友がそう言うならと、約束を守ることを誓う。


「よし……じゃあ、まず初めに俺がさっきやろうとしていたことを端的に説明しておかないとな」


 さっきとは特別棟に続く外壁を登ろうとしていた話のこと。

 傍から見れば犯罪的行為と捉えられても可笑しくはないことだが、ユーグが言うにはある目的があるようで……。


「俺があんなことをしていた理由、それはな……」


「そ、それは……?」


 ゴクリと唾を飲み込み、聞き返す俺にユーグは真面目な顔を向けると、こう言った。


「特別棟にある女子更衣室に……潜入するためなんだっ!」

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