47.怪しきもの
いかにも怪しい風貌をした黒ローブの人物。
俺はその怪しきものをこっそりと後から追跡していた。
「うーむ、やはり怪しい……」
さっきから止まっては周りを見ての繰り返しで人目に触れぬようかなり用心している様子。
それが不審さを極め、余計に目立っているというのに。
「……よし、周りには誰もいないな。順調順調!」
聴覚強化系の魔法を自らに施し、ローブの人物の独り言を傍聴。
声からして男のようだが、それ以外はまだ何も分からずにいた。
「とりあえず、誰かに見つかる前に行かなくては。……これも任務のうちだ」
……任務のうち?
確かに今、ローブの人物はそう言った。
(任務って一体どういうことだ?)
もしかして、スパイか何かか?
いや、でもさすがにあんな怪しい奴の侵入を許すほど本部のセキュリティーはお粗末なもんじゃないはず……
「……あ、また動き出した」
しかも今度はさっきよりも早歩きで。
一見すると、何やら慌てているようにも見えた。
「ますます怪しいな、ありゃ。見失わないようにしなくては」
気づかれぬよう少しばかり距離を取り、俺は引き続き不審者の追跡を続ける。
♦
時は少しだけ遡り、数十分前のこと。
本部内の大食堂にて会話を弾ませる二人の女勇者がいた。
「こうして二人でご飯を食べるのも久しぶりだね~」
「うん。遠征生活に慣れちゃったからこうしてリーフレットと大食堂で食べるのはすごい新鮮。なんか懐かしい感じ」
リーフレットとリィナ。
勇者軍入隊時の同期同士が大食堂で昼食休憩を取っていた。
リーフレットの目の前には大皿にたんまりと盛られたオムライス。
リィナの目の前には大盛りのミートスパゲティが置かれていた。
「じゃあ、食べよっか」
「食べよう。お腹すいた」
リーフレットがそう言うと、二人は手を合わせ、いただきますと一言。
もぐもぐと食べ始める。
「それにしても昨日は残念だったなぁ。せっかく王女様の姿を見れるチャンスだったのに」
「でも、シオンが言うにはものすごい美人だったらしい。なんかニヤニヤしながら、そう話してくれた」
「ふぅーん……そうなんだ」
ちょっと不満そうな顔をしながら、オムライスを口に入れる。
すると話題は突然シオンとリーフレットの話へと変わる。
「そういえば、シオンとリーフレットって幼馴染なんだっけ?」
「うん、そうだよ。同じ村の出身でいつも一緒に遊んでた」
かれこれ数年間。
リーフレットとシオンは同じ環境で暮らしてきた。
今となっては過去の話だが、リーフレットにとってはその一瞬一瞬が大切なものだった。
「しーちゃんは弱くて何もできなかったわたしを変えてくれた恩人なの。こうして勇者としていられるのも全部しーちゃんのおかげ」
「そっか。だから昨日もずっとシオンのことを見ていたんだね」
「えっ……?」
「ずっと気になってたの。気が付けばシオンの方を見ていたから。でも今の話を聞いてようやくわかった」
「な、何を……?」
リーフレットは少し引き気味に恐る恐る聞く。
リィナはそんな彼女にニヤッと笑うと、
「リーフレットはシオンのことが大好きなんだなってこと」
……と、言い放った。
「そ、そそそんなこと……っ!」
変わる顔色は恋する乙女のそれ。
そして今までにないほどまでの動揺を見せる。
「やっぱりね。リーフレットは分かりやすい」
「だ、だからぁ……!」
「隠しても無駄。わたしの目は誤魔化せない」
「う、うぅ……リィナのいじわる……」
少し涙目になるリーフレット。
でもそんなリーフレットを微笑みながら見るリィナは何かを思いついたかのようにポンと手を叩いた。
「あっ、そうだ。いいこと思いついた」
「ん、何を?」
「秘密。もしかしたら面白いことになるかもしれない」
「……お、面白いこと?」
不思議そうな面構えを見せるリーフレット。
それに反して「ふふふ」と悪女のような笑みを見せるリィナ。
そしてこの瞬間、リィナのみぞ知る計画が始動することになったのである。




