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45.もう一つの


「この度はわざわざお時間を割いていただき、感謝致します」


「いえ、陛下がお呼びとあれば当然のことです」


 俺は今、一国の姫君と向かいあって座っている。

 テーブルの上は豪勢な茶菓子と高そうな紅茶で彩られ、傍から見ればティーパーティーといった感じ。


 もちろん、呑気にお茶会なんてできるはずもない。


(やっぱり、落ち着かないなぁ……)


 初めは女王と会うくらいどうということはないと思っていた。

 だがいざこうして面と向かって会話すると、中々うまくいかない。


(何を話せば良いかも分からないし……)


 ただ沈黙の時間のみが場を支配する。

 

 出された紅茶を無言で啜り、何を話せばと考えていたその時だ。


 先にクラリスの方から話を切り出してきた。


「先ほどは申し訳ありませんでした。何やら外の者が無礼を働かせたみたいで。このことは一部の使用人と戦士長のマクドエルにしか伝えていなかったのです」


「い、いえ! 大丈夫です。でも、どうして秘密にする必要が?」


 話題に乗っかり、その勢いで質問を投げてみる。

 クラリスはティーカップを持ち、紅茶を一口含んだ後、その質問に答えた。


「あくまで自己防衛の一環です。最近何かと物騒でして……」


「物騒って……まさかクラリス陛下のお命を狙っている輩がいたり……とかですか?」


 と、冗談半分で言ってみるが女王は、


「はい、おっしゃる通りです」


「えっ!?」


 即答。

 まさかの一言で変に声が裏返ってしまう。

 

「ほ、本当なんですか?」


「はい。まぁ先の戦争で自分の起こした行動が原因なんですが。おかげでわたくしは外に出ることすらままならなくなり、民の顔もゆっくりと拝むことができなくなりました」


「民の……顔」


 この言葉を聞いて俺はふっと今朝親方と話した内容が浮かび上がってくる。

 

(大衆の前には滅多に顔を見せないというのはこれが原因だったのか)


 自分の身を狙う者の存在。

 あえて先のことは聞かなかったが、大体見当はついた。

 

 先の大戦で影響を持ちすぎて命を狙われるようになり、自然と城に籠るようになった。

 民の前に顔を出さないのも外に出て自分の身を曝け出さないため。


 そして俺みたいな外部の人間との面会の話も自身が信頼を置いているもののみに伝える。

 敵はいつだって外にいるとは限らない。


 あくまで予想に過ぎないが、内部からも命を狙われているかもしれないという危機感を持っているからこそ、そうしているのだろう。


 まぁ、何時殺されるか分からない状況ならば当然といえば当然の判断だ。


「あっ、ごめんなさい。なんか暗い話になってしまいましたね。そろそろ本題に移りましょうか」


「は、はい……」


 クラリスは会話の合間に紅茶を挟むと、本題の内容を話し始めた。


「まず初めに今回の魔獣騒動の件は本当にありがとうございました。国民を代表して感謝を申し上げます」


 クラリスは深々と頭を下げ、感謝の意を示す。

 この国で最も力を持つ人間が自分に向けて頭を下げているという何とも信じがたい光景。


 こんな状況を他の人に見せたらさぞ驚かれることだろう。


「顔をあげてください、クラリス陛下。当然のことをしたまでです。別に大したことじゃ――」


「いいえ、シオン様のご活躍は多くの民を救いました。本当に、感謝してもしきれないくらいです」


 そこまでかというほど何度も礼を言ってくる女王。

 しかもその礼として何か願いはないかと聞かれる。


 でもさすがにすぐには思いつかなかったので、俺はダメもとで()()()()をクラリスに頼むことに。


 流石に無理だろう……そう思っていた。


 のだが、クラリスは俺の予想に反してあっさりとOKしてくれた。


「ほ、本当にいいんですか?」


「もちろんです。喜んでご契約をさせていただきます」


 前にもこんな状況があった。

 勇者軍との交渉の時だ。


 俺は今回も同じように親方が経営する武具店と王国軍との間に顧客契約を結んではくれないかと頼んだわけ。

 ぶっちゃけ無謀すぎるお願いだったが……。


(まさか即答でOKを出してくれるとは……)


 一応何度か確認を取ったが、本当に契約を結んでもいいとのこと。

 しかも今回は”仮”ではなく、いきなり本契約だ。


(これは良い土産話ができたな)


 そう思いながら、後日契約書を送ることとなった。

 

 そして話はもう一つの本題へと進んでいく。


「クラリス陛下、そういえばここに来る前に自分にお話があると聞いたのですが……」


 初めにこちらから話を切りだし、俺に話があるということについて言及してみることに。

 すると、クラリスは突然立ち上がると「少々お待ちください」と言って再び奥の部屋へと入っていった。

 

 そして数分後、クラリスは一本の剣を持ち、戻ってきた。


「今日、お話があるといったのはこの剣についてです」


「こ、この剣は……!」


 目の前に置かれた一本の剣。

 それは俺が一番よく知っている代物だった。


 そう、かつて俺が作った〝剣〟。


 ただし、ただの剣ではない。

 一度だけ自分の腕を確かめるべく実験的に作った特殊魔法を施した剣、俗称で言うなら〝魔剣(マジックソード)〟と世間では認知されているものだ。


「まず初めにお聞きいたします。シオン様、これは貴方がお作りしたものですね?」


 険しく真剣な眼差しを向け、クラリスは聞いてくる。

 俺は素直に頷き、答える。

 

「間違い……ありません。ですが、何故これを?」


「ほんの二か月前にとある武器商人から押収したものです。他国間で武器の不正売買を行っていてあともう少しでこの剣も他国へと売り渡されるところでした。シオン様のお名前もその武器商人を捕縛、連行した際に当人の口から出てきました」


「武器商人……まさか、あの時の!」


 クラリスの説明で過去の記憶がジワジワと蘇ってくる。

 

 これが半年前くらいの話、どういうわけかこの剣の存在を知っていた一人の男が工房に姿を現した。

 訪問理由はこの剣を自分に売ってほしいという単純なもの。


 だが魔剣という特殊かつ使い方を誤ればとてつもない凶器になりえるものを簡単に他人に譲渡するわけにはいかないと思い、断った。


 しかし後にこの魔剣の持ちすぎた力を知った俺と親方はいっそのこと廃棄をしようという決断に至り、工房近くの平原にひっそりと埋め、力が外に漏れないよう結界魔法を施し、封印した。


 ……はずなのに。


(いつの間にか一部始終を見られていた上でこっそりと持ち出されていたというのか……)

 

 となると、俺宛てに送られてきた例の依頼書の差出人って……

 そんなことを考えていると、クラリスの声が頭を過った。


「この剣はとてつもない力を秘めています。それこそわたくしがかつての戦争で握り、何人もの人間を大地に返したレーヴァテインに匹敵するほどに」


「レーヴァテイン……?」


「わたくしが戦時に使っていた魔剣の通称です。名前の通り、聖剣レーヴァテインから来ています」


 レーヴァテイン。

 どこかで……って思ったら前に読んだ書物にもそんな名前の剣が出てきたっけ。


(あれは実在する魔剣のことだったのか)


「貴方の作った剣は大変素晴らしい代物です。以前までわたくしが操っていたレーヴァテインと同じようにこの剣は封印されてもなお、強い力を有している」


「……つまり、どういう意味ですか?」


 俺の質問にクラリスは続ける。


「今、わたくしはどうしても果たさなければならないことがあります。そのためにはより強力で自分に適応した剣が必要なのです」


「剣が必要……?」


「はい。そこでこのような力ある魔剣をお作りできる数少ない技師であるシオン様に頼みたいことがあります。ちなみにこれが、わたくしが今日シオン様をお呼びしたもう一つの理由なのです」


 クラリスはここで話を一旦区切る。

 そしてしばらく間を置き、紅茶を一口含むと、今日俺を呼んだもう一つの理由を端的に話し始めた。


「シオン様。誠に勝手ながら貴方のその卓越した技能を見込み、一つお願いがあります。わたくしに……剣を作ってはくださいませんか?」

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