41.理由
「お待ちしておりました。シオン殿、それと……リィナ殿も!?」
「お久しぶりです、アゼルさん」
勇者軍本部の門前。
気さくなマスターのいる店を後にした俺たちはそのまま本部へと足を運んでいた。
そして勇者軍の門前には武装した一般兵二人と、専用の軍服に身を包んだ若い男が立っていた。
若い男の方は見た感じ、一般兵ではない。
(リィナとは親しく話しているようだが……)
するとその若い男の視線は俺の方へと向く。
「シオン殿、お初にお目にかかります。私は現勇者軍経理部門統括兼副団長のアゼルと申す者です。この度はリベルカ現団長のご命令のもと、お迎えに上がらせていただきました」
アゼルと名乗る男は丁寧にお辞儀をしつつ、そう話す。
まさかの副団長さんだったとは……。
「こちらこそわざわざありがとうございます。シオン・ハルバードです」
「お噂はリベルカ団長から聞いております。先の事件では本当にお世話になりました」
何度もお辞儀をし、礼を述べるアゼルにリィナは不思議そうにこちらを見てくる。
「先の事件……? 何かあったの?」
「いや……ちょっと前に騒動があってな。多分後でリベルカさんから話があると思うが、それなりに被害も出た」
「そ、そうなんだ……」
「では、お二人とも。中へご案内いたします。どうぞこちらへ」
そう言ってアゼルは先導し、俺たちを中へ案内する。
そして連れていかれた先はもちろん、団長室であった。
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「リベルカ団長、アゼルです。本日面会予定のシオン殿がご到着されました」
「どうぞ、入ってください」
「失礼致します」
流れるようなやり取りで俺は団長室へと誘われる。
ちなみにリィナは報告よりも先にやることがあるとのことで別室へと向かった。
ついでに例の大袋も武具管理を担当する兵士に渡しておいた。
「失礼します、リベルカさん」
室内に入ると共に一礼。
部屋を見ると団長用のデスクの上は書類の山で埋め尽くされていた。
そしてその先にある椅子に――リベルカは座っていた。
「事件以来ですね、シオン。身体はもう大丈夫なのですか?」
「はい、おかげさまでもう何ともありません。リベルカさんこそ事件後は色々と苦労されていたみたいで……」
「そんなことはありません。勇者軍の長として何もできなかった分の働きをしたまでです。シオンには本当に感謝しかありません」
「か、顔をあげてくださいリベルカさん。もう過ぎたことなんですから」
深々と頭を下げるリベルカを宥める。
もう何度この言葉を言われただろう。
前にリーフの家にお見舞いに来てくれた時も同じような会話を交わした気がする。
リベルカにとってあの事件は精神的に相当こたえているようだと改めて認識する。
「お好きなところに腰をかけてください。お話したいことがあります」
リベルカはティーカップに紅茶を注ぐと客人用の机の上にそっと置く。
俺はソファに腰をかけると、リベルカの入れてくれた紅茶を一口含んだ。
「……ふぅ。それでリベルカさん、話したいことって何ですか?」
「はい。実は……」
早速本題へ。
するとリベルカは大まかな内容を話し始めた。
……
……
「……クラリス女王陛下が俺との面会をご所望されている!?」
「はい。私も仲介人を通じてお話を伺った時は驚いたのですが、どうやら本当のようで」
「でも、どうして殿下が?」
「先の魔獣騒動の一件についてのお礼をしたいとのことです。それ以外にも聞きたいことがあるらしいのですが、それは対面してからお話したいと……」
「ま、マジですか……」
クラリス=フォルン・ルーベリック。
大陸4大国の一角と名高いルーベリック王国の元第一王女であり、現政界のトップに座する者。
元々は彼女の父であるヘクター国王が政治の実権を握っていたが、数年前に持病により他界。
それにより第一王女ではあったクラリスが跡目につくことになった。
いわば正真正銘、国の最重要人物。
そんな人物から話がしたいから王城へ来てほしいとお呼ばれされているわけだ。
「一応護衛としてこちらからSクラスに属する兵士二人を同行させる予定ですが、どうしますか?」
リベルカが言うには後は俺の返事待ちとのこと。
俺が「はい」と言えばその瞬間、女王陛下との対面が決定する。
でも俺には断る理由がない。
しかも女王陛下が直々に会いたいと言っているんだ。
流石に仕事云々で断るわけにもいかないし……
「……決めました。俺、王城へ行きます」
考える間もなく即答。
俺はリベルカにそう伝えてほしいとお願いする。
「分かりました。では、そのように陛下にはお伝えしておきます」
「はい、お願いします」
……と、いうわけで後日、俺は女王陛下と顔を会わせるべく王城へと赴くことになった。




