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04.聖威剣


 勇者は誰にでもなれるわけではない。

 生まれつき与えられる聖魂という特殊能力を覚醒させたものだけが勇者の称号を手にすることができる。


 勇者というのは誰もが一度は憧れるものだ。

 昔の勇者と比べれば数も増えたし、神と同等の存在と言われていた頃よりも身近なものになった。


 しかしながら”選ばれる”という意味では昔も今も変わらない。

 勇者を志すものは多いが、その中で本当に勇者としての人生を歩むことができるのはほんの一握り。


 聖魂自体も持っていなければ話にならないし、仮に聖魂を持っていたとしても覚醒させなければ意味がない。


 その点ではかつて神託によって選ばれた人類の希望という説は間違っていないと言える。


 が、一つここで疑問が生じる。

 それは勇者になれるかなれないかを左右する聖魂の有無をどうやって確認するかということだ。


 覚醒前の聖魂は何かしらの形となって表れることが滅多にない。

 だから自分が聖魂保持者か否かというのは普段の生活で解明することは難しい。

 

 そこでだ。勇者軍入隊を希望する際に必ず行われる儀式がある。


 俺たちはちょうど、その話をしている最中だった。


「お前、これを例の儀式で覚醒させたのか?」


「そうだよ。少しだけ手間取ったけどね」


 場所は変わって工房内。

 俺はリーフレットから渡された一本の剣をマジマジと見つめていた。


「す、すごい魔力だ。持っているだけなのに、手元がビリビリする」


「そりゃそうだよ。なんたってその聖威剣は古代遺跡から発掘された神剣の欠片から復元して作られたものだからね。並大抵の勇者じゃ扱えるものじゃないよ」


 胸を張り、誇らしげにそう語るリーフレット。

 俺が今、手に持っているのは聖威剣と呼ばれる勇者のみが扱えるとされる剣だ。


 一般人の間からは絵本や物語などに出てくる空想上の伝説の剣の俗称を取って”聖剣”などと呼ばれている。

 この聖威剣は使用者の体内にある聖魂と連動し、力を発揮する特殊なものでその力は所有者の熟練度によって大きく左右されるため未知数と言われている。


 物理的な強さはもちろんのこと、身体強化や即時回復などの恩恵も得られ、所有者は人の域を外れた戦闘能力を発揮することができる。


 もちろん、聖威剣によって個人個人に与えられる能力は異なる。


 だがそれは聖魂が体内にあるというのが最低条件。

 体内に聖魂がなければ能力が使えず、ただの剣としての役割しか期待できない。


 なので勇者になる際には必ずある儀式を通らないといけない。

 それが、覚醒の儀と呼ばれる儀式だ。


 儀式の内容は至って簡単。

 各々ランダムに渡された聖威剣に触れ、自分の中に眠る聖魂を覚醒させられたらそれでOK。


 認められたと判断されてその聖威剣の所有者になると共に、勇者としての肩書も手に入るという寸法だ。


 ちなみに聖魂を覚醒出来た時は聖威剣が蒼白く光る。

 覚醒できなくても豆電球くらいの明かりが灯されるが、聖魂を持っていない場合は光ることすらない。


 だから聖威剣に触れれば全てが一発で分かる。

 

 え? それだけ? と思うかもしれないが、本当にそれだけである。


 だがこれが何より難関で大抵の人間は聖魂を覚醒できずに終わる。

 後は自分に聖魂がないという現実を知るかのどちらかだ。

 

 ちなみに俺の時は聖威剣に近づいただけで聖魂を覚醒させることができた。

 当時はそれだけで大騒ぎになったものだ。


 まぁ今は過去のことは置いといて、今目の前にいるリーフレットはそんな難関儀式をクリアした一人ということ。


 しかも使役したのが普通の聖威剣とはだいぶ違うようで、


「その並大抵じゃ扱えないってのをお前は扱えるっていうのか?」


「あったり前だよ! 彼女とはもうかれこれ2年以上の付き合いなんだ~」


「え、かのじょ……?」


 と、その時だった。

 

 突然俺の手元にあったリーフレットの聖威剣が勝手に動き出し、


『こんにちは、シオン様。初めまして』


「……なっ!? け、剣が喋るだとッ!?」


 ぷかぷかと空中に浮遊し、挨拶をしてくる聖威剣。

 ご丁寧に切先を縦に傾け、お辞儀までしてきた。


「名前はヴァイオレットっていうの!」


「な、名前まであるのか!?」


「そう! わたしが付けたのよ。可愛い名前でしょ?」


「は、はぁ……」


(剣に名前って……)


 でも驚いた。

 まさか剣に自我があるなんて。


「今の聖威剣はみんなこうやって人と会話をすることができるのか?」


「ううん、彼女は特別なの。さっきも言ったけど、ヴァイオレットの原型はかつてこの世に君臨したとされる十二の神の一人が使ってたとされる神剣の欠片。それを復元して魔力を液状化させたアンプルを組み込んで聖威剣化させたの」


「ってことは前にその神剣を使っていた所有者の魂が……?」


「そう、眠っていたの。それも同時に復元したからこそ、彼女は剣の姿でありながら自我を持っているんだよ」


「まるで夢を見ているかのようだ」


「初めはみんな驚いちゃって困ったもの。わたしも初めて聖魂を覚醒させた時にはびっくりしたし」


「まぁそりゃ、驚くわな……」


 しかし剣と会話……か。

 昔は俺もそんなことができれば面白いだろうなとは思っていたが、まさか現実になるとは。


 ……と、そんなことを思っているとリーフレットが、


「あっ、そうだ。ねぇ、しーちゃん。この後何か用事でもある?」


「用事? いや、俺はまだ仕事が……でも何で?」


「新しくなった勇者軍の拠点を見せてあげたいなって思ってたんだけど……仕事があるなら無理そうかな?」


「まぁな。久しぶりのところ悪いが、流石に仕事を抜け出すわけには――」


「がっはっはっは! どうやらお困りのようだな、シオンよ」


「お、親方!」


 突然。どこから現れたんだと言わんばかりに親方が姿を見せる。

 その様子から察するに俺たちの会話の一部始終を聞いていたみたいで……


「行ってこいシオン。後の仕事は俺が済ませておく」


「で、でも親方! さすがにそれは……」


「でも旧友同士、久しぶりの再会なんだろ? それを邪魔しちまったらバチが当たるってもんよ」


「お、親方……」


「それに、最近お前には頑張らせすぎてないかと少し反省していたところだったのだ。たまには外の空気でも目一杯吸って伸び伸びと過ごす日があってもいいじゃないか?」


「親方が、そうおっしゃるのなら……」


 と、俺の言葉を聞いた親方は今度は視線をリーフレットへとシフトさせる。


「ってなわけだ嬢ちゃん。シオンと楽しんでくるがいい」


「あ、ありがとうございます! えーっと……」


「ガイルだ。よろしくな、嬢ちゃん」


「は、はい! よろしくお願いします、ガイルさん!」


 リーフレットは親方に頭を下げ、お礼を述べる。

 そしてこの瞬間、俺は親方の計らいで三日ほどの休日が与えられた。


 鍛冶職人になって初めての長期休暇である。


「じゃ、早速行こ! しーちゃん!」


「ちょっ、おい! 無理矢理に腕を引っ張るなって!」


 ……というわけで俺はリーフレットと共に勇者軍の拠点へ行くことになったのであった。

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