37.呼び出し
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ゴルドの一件から数日が経ち、俺はいつものように仕事へと復帰していた。
「ふぅ……よし! 中々良い出来栄えだ」
久しぶりに仕事で流す汗は一切苦痛に思わず、新鮮だった。
むしろこうしてまた仕事に打ち込めることに嬉しさを感じているくらい。
「せめて遅れた分は取り戻さないとな」
例の一件のせいでここ数日の間、全く仕事ができていなかった。
リーフレットの家で休養を取った次の日から工房には顔を出したのだが、まだ安静にしていろとのことで仕事をさせてはくれなかった。
詳しい事情を知っていたところから軍の誰かが直々に親方へと伝えたのだろう。
で、ようやくお許しが出たということで気合いが入っていた。
「さて次は……」
工具を探しながら次の作業へ。
その時だ。
「おーい、シオン! いるかぁ?」
工房内に響く太く力強い声。
恐らく親方の声だ。
振り向くと、広い工房内を見渡す親方の姿があった。
「はい! 俺ならここにいますよ!」
手を振り、親方に合図を送る。
親方は合図を見ると、俺の元へと歩み寄って来る。
「シオン、ちょっといいか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
そう答えると、親分は懐から一枚の封筒を取り出し、俺に渡してくる。
「ほれ、勇者軍の団長さんからお前宛てに手紙が届いていたぞ」
「手紙……?」
俺はその手紙を受け取ると、早速開封する。
中には一枚の便箋が入っており、丁寧な字で内容が綴られていた。
「えーっと……」
俺はスラスラっと読み進め、一通り目を通す。
小難しい言葉で書かれていたが、内容を要約すると、話したいことがあるから勇者軍本部まで来てほしいとのこと。
だが詳しい理由までは明記されていなかった。
「なんて書かれていたんだ?」
「なんか話したいことがあるから本部まで来てほしいらしくて」
「例の魔獣騒動の話か?」
「多分そうだと思います」
でも理由が一切書かれていないのは何故だろう。
手紙では書けないようなことなのだろうか?
「どうする? 今から行くのか?」
「いや、今日は仕事を優先したいと思います。代わりに明日の午前中だけ空けてもいいですか?」
「おう、それは構わないぜ。あっ、じゃあついでに……」
「ん……?」
と、ここで親方は急ぎ足で工房の奥にある部屋へ。
あっ、これ何か嫌な予感が。
そしてその予感はズバリ的中した。
親方は奥の部屋からゴソゴソと大きな袋を取り出してくると、俺の目の前にドンと置く。
「あ、あのぉ……親方。これは?」
「勇者軍からの追加発注だ。行くならこれも持って行ってくれ」
あぁ……やっぱりですか。
でも今回は馬車を使って――
「あ、ちなみに今回も馬車の手配を忘れちまった。なんか忘れちゃうんだよなぁ~ガハハハハハ!」
いや、だからガハハハじゃないって!
心の中でそう思いながら、俺も愛想笑いをする。
(まさかまた同じ展開になるとは……)
でも午前中だけとはいえ、仕事を抜けるので反論はできない。
「何度もすまねぇなシオン。頼めるか?
「わ、分かりました……届けておきます」
渋々了承。
そして明日、俺は勇者軍の本部へと出向くことになった。
♦
時は進んで次の日。
俺はドデカい袋を担ぎながら、王都へと向かっていた。
「やっぱりきついな……」
しかもよりによって気温が炎天下並の暑さ。
歩けば歩くほど体力を持っていかれる。
(せめて荷車くらい用意してくれても良かったのになぁ……)
そう思いながら、俺は王都までの道を歩む。
すると、
「ん、あれは……」
行く道のすぐ前方に誰かが座り込んでいる。
黒いローブを被っていて素顔は見えないが、ただならぬ雰囲気を感じた。
「だ、大丈夫ですか?」
俺は近くに荷物を置き、駆け寄る。
「あ、あなた……は?」
座り込んでいるローブの人は顔を上げると、震え声でそう話す。
その素顔はまだローブの影でよく見えない。
が、声からして女の子? のようだった。
「俺は通りすがりの鍛冶職人だ。君はここで何をしているの?」
その震える声に返答。
するとローブの子は俺の服の裾をちょんと引っ張りながら、
「……ほしい」
「え?」
「あなたのが……ほしい!」
「はい!?」
突然、声量を上げてそう言ってくる。
予想もしてなかった返答に俺は思わず声が裏返ってしまった。




