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36.手料理


 リーフレットが手料理を作ってくれるとのことで俺は一人寝室で待つことになった。


 その間、俺は常日頃から持ち歩いている修復用キットを使ってグランのアフターケアをしていた。


『にしても、中々見せつけてくれるではないかシオンよ。見ているこっちまで恥ずかしくなったぞ』


「う、うるさい! あれはリーフがいきなり……」


 グランは笑いながら俺をからかってくる。

 確かに少しきわどい雰囲気にはなったけども……。


『まぁまぁ良いではないか。それも若さ故のことだ』


「からかうなって……」


 そんな会話を交わしながら俺は丁寧にグランのケアをしていく。


『それよりシオンよ。お前に一つ言っておきたいことがあるんだが』


「なんだ?」


 話題は変わり、グランは俺に戦闘の際にあった”あること”について話してきた。


「見られていたか……」


『ああ。ゴルドとの戦闘の際に微かではあるが、魔力反応があった。その様子だとお前も気づいていたようだな』


「まぁな」


 グランの言う通り、戦闘の最中に妙な気配というか何者かの視線らしきものは感じた。

 一応警戒はしていたが、横やりを入れてくるような気配もなかったからスルーしていたけど。


「何者なんだ?」


『分からん。でもゴルドと似たような邪悪な霊気を感じた。恐らくは……』


「ゴルドの他にも魔人、もしくは上位魔族がいたということか?」


『多分な』


 でもどういうことなのだろうか。

 ゴルドも仲間を呼ぶような仕草は見せていなかった。


 周りに仲間がいるのなら呼んで加勢してもらえば有利に戦闘が出来たはずなのに。


「妙だな。何か嫌な予感がする」


『同感だ。でも一つだけ確実に言えることは魔王軍側で何らかの動きが起ころうとしているということだ。お前は勇者軍の団長にここ最近の状況を聞いたのだろう?』


「聞いた。最近は魔王側(むこう)による侵略的行為も前ほどはないってね」


『だとすれば、今回の一件は一種の引き金(トリガー)だったのかもしれんな』


「人界に踏み込むためのか?」


『そうだ。ゴルドもどうやら勇者軍を潰すために動いていたみたいだしな。可能性は高いだろう』


「なら尚更今の勇者軍じゃ危ないな。今侵略行為に出られたら間違いなく……」


『崩壊だな。それも清々しいくらいに』


 それだけは避けなくてはならない。

 復活した魔王を封印できるのは聖威剣を操れる勇者のみ。


 もし勇者軍が壊滅すれば封印そのものができなくなる。

 リベルカもそのことを危惧しているからこそ組織改革という大きな計画を立てたのだろう。


「とりあえず、改革の件については早急に進めないとな。リベルカさんにも話を――」


 ――コンコン


「しーちゃん、入ってもいい?」


 と、ここでドアのノック音と共に部屋の外からリーフレットの声が聞こえてくる。

 

 俺は「大丈夫だ」と一言返すと、リーフレットは料理を乗せたお盆を手に持ちながら部屋へと入ってきた。


「何か話しているみたいだったけど、誰と話してたの?」


「え、ああ……それはこいつとさ」


「こいつ……?」

 

 と、その時。

 グランはふわ~っと浮遊し、


『初めまして、だな』


 剣先を傾けて挨拶する。


「えっ!? しーちゃん……これって」


「うん。こいつもヴァイオレットと同じように人と会話ができるんだ。名前はグラン」


「グラン……さん?」


『普通にグランでいい。よろしくな、シオンの幼馴染よ』


「こ、こちらこそ宜しくお願いします……」


 突然のことで驚いているのか少し反応がぎこちない。

 俺もヴァイオレットを見た時はこれ以上に驚いたもんだ。


「あ、しーちゃん。これを」


 そう言ってリーフレットは近くにあった小テーブルにお盆を乗せる。

 俺はベッドから出ると、小テーブルの近くにあった椅子に座り、料理を頂くことに。


「いい匂いだな。一体何を作ったんだ?」


「ふふん♪ それは見てからのお楽しみだよ」


「お、じゃあ早速中身を見させてもらおうかな」


 リーフレットが部屋に入ってきた時からいい匂いはしたが、目の前に料理が来るとその匂いはさらに強まる。

 そしてこの匂いは……


「おぉ! やっぱりシチューか!」


 容器の蓋を開けると飛び出したのは如何にも濃厚そうなクリームシチュー。

 しかも大きめの野菜とお肉が入っていて食べ応えがありそうな一品だった。


「本当にこれをお前が作ったのか?」


「そうだよ! あ、まさか信じてない?」


「そういうわけじゃないけど、単純にすげぇなって……」


 俺も一人暮らしで何度かシチューを作ったことがあるが、ここまで美味そうには作れなかった。

 味はまぁ……よくもなく悪くもなくって感じ。


 でもこれはどっからどうみても美味そうにしか見えない。

 

「じゃ、じゃあ頂こうかな」


「どうぞ、召し上がれ」


 俺はスプーンを手に取り、一口分だけシチューをすくう。

 そして匂いを堪能しながら、そのまま口の中へと放り込んだ。


「こ、これはっ……!」


 旨い……旨すぎる!


 味は見た目通りだった。

 ゴロゴロと入った野菜とお肉は食べ応え満点で腹を空かせた身体を一気に満たしていく。

 そして同時に疲れていた身体に精気が吹き込まれていく。


「ど、どうかな?」


 リーフレットは感想が気になるのか不安そうな顔をして覗きこんでくる。

 俺はそんなリーフレットにグーサインで答えた。


「最高だよ、リーフ! こんなに美味しいシチューは今まで食べたことがない!」


「ほ、本当? 良かったぁ……」


 その言葉を聞いてホッとするリーフレット。

 俺はそんなリーフレットを横目にモリモリとシチューを口の中へかきこんでいく。


 食べれば食べるほどその旨さは増し、食欲が尽きない。

 見た目は濃厚そうなのに結構あっさりとしているから、どんどん食べられる。


 これはもう俺が作ったシチューなんかとは比較にならない。

 というか比較対象にするだけ失礼というもの。


「す、すごい食欲だね……」


 食べるスピードに驚くリーフレット。

 

 そしてあっという間に皿の上からシチューはなくなっていき……


 完食。


「ごちそうさまでした。ありがとう、リーフ。最高のシチューだったよ」


「そ、そんなにおいしかった?」


「おう! また作ってほしいくらいだ!」


 そういうとリーフレットの顔がポッと赤くなる。

 そして少し恥ずかしそうにモジモジしながら、


「じゃ、じゃあ……今度持っていくよ。しーちゃんの職場に……」


「えっ!? マジ!? いいの!?」


「う、うん……」


「よっしゃぁぁぁぁぁ!」


 これは心の底から嬉しかった。

 それにこんなにも旨いものが職場で食えるのはかなり大きい。


 基本的に職場での昼食は自前で、俺は毎回街で安売りされていたパンを持って行っている。

 正直、腹は満たされないし、味もそこまで美味しくない。


 リーフのシチューが職場で食えるならいつもの倍は仕事が捗りそうだ。


「じゃあ、今度持っていくね。それまでにもう少し腕をあげておくよ」


「えっ、俺は別に今のままでも十分だと思うけどな」


「で、でも……もっとしーちゃんに喜んでもらいたいし……」


「えっ? なんて?」


 言葉が聞き取れず、もう一度聞くが、


「う、ううん! 何でもない!」


 答えてはくれなかった。

 でもなんか妙に顔が赤いのは何故だろうか?


「じゃあ、わたし洗い物してくるから……」


「あっ、それくらい俺が……」


「だ、大丈夫! しーちゃんはゆっくりしてて」


「そ、そうか?」


「うん! じゃあ、また戻って来るから」


 そう言ってリーフレットはソワソワしながら、再び部屋の外へ。

 

「何であんなに慌ててたんだろう? 顔も赤かったし、大丈夫かあいつ」


『鈍感なやつだなお前は。あそこまで見ても分からないのか?……』


「え? それはどういう……」


『ま、気づいていないのなら仕方ない。でもあの娘も大変だな、色々と」


「だからなんのことだよ!」


 グランはその真意を説明してはくれなかった。

 俺はただ一人、不思議に思いながら、再びグランのケアを始めるのだった。

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