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34.自らの過去に決着を(後)


「瞬間再生だと?」


「驚いたか? ちなみにこの能力を俺に使わせたのはお前が初めてだ。光栄に思うがいい」


 聖威剣の能力がバフでも攻撃型でもなく、回復型なのは驚いた。

 それなりに深手は負わせたはずなのに傷一つすらなく、完全回復していた。


 回復の反動からか魔力も少しだけ上がっている。


 でも俺は攻撃の手を止めることない。


 今度は思考を変え、首を刎ねてみる。


 ……が、それでもすぐに再生。


 じゃあ次はと、魔族全般に対して共通の弱点である心臓部分(コア)の破壊を試みるが――これもダメだった。


「なるほどね。こりゃあスゴイ能力だ」


「ふふふっ、だから言っただろう? 誰が向かってこようが結果は同じだと。首を刎ねようが心臓を貫こうが俺は何度でも蘇る!」


 ふははははっとまるで勝ったかのような笑い声をあげるゴルド。


 確かに強力な能力だ。

 それに回復する度に奴の魔力が増幅している。


 抵抗もないところを見るとわざとやられているってところか?


「厄介だな……」


 魔力量は圧倒的にこちらが上。

 だが、何をしても回復するとなるとどんなに強力な攻撃を叩きこんでも意味がない。


『どうする、シオン。このまま攻撃を続けても意味がないぞ。それに解放の呪文の効果がきれたら一気にこちら側が不利になる』


「分かってる。でも今のあいつの身体は不死身同然。外部からの攻撃じゃ全く持って歯が立た――いや……待てよ」


 この時、俺はあることを閃く。

 もしかしたらこの状況を打開できるかもしれない策だ。


『どうした? 何か良い案でも思いついたのか?』


「……ああ! 俺の理屈が正しければな。でもこれをやるにはお前の持つ”特殊能力”が必要不可欠だ」


 俺はグランにだけその打開策を説明する。

 するとグランは、

 

『なるほど。やってみる価値はあるな』


「決まりだな」


 作戦内容は決まった。

 後は実戦でできるかどうか。


「さて、そろそろ力のお披露目会はここまでにしよう。さっきあそこにいる三人にも言ったが、こうしていつまでも遊んでいる暇など俺にはないのだ」


「へぇ、奇遇だな。俺も次の一撃で終わらせたいと思っていたところだ」


「一撃で……だと?」


「そうだ、”一撃”でだ」


 するとゴルドは額に手を当てながら、大声で笑いだす。


「ふっ……ははははははっ! それは面白いハッタリだ! お前はまだ分かっていないのか? 俺のこの能力を」


「もちろん理解した上での話さ」


 俺は一瞬たりとも笑いもせず、ただゴルドの眼だけを見てそう話す。

 

 と、ゴルドは途端に笑うのを止めると、表情が真顔に切り替わった。


「あまり図に乗るのもいい加減にしろよ、小僧。お前は一度、身の程ってもんを知った方が良い」


「それはこっちのセリフだ。お前こそ身の程を弁えろ」


「くっ……! このクソガキぃぃ!」


 俺の一言で堪忍袋の緒が切れたのか、額に血管を浮かせ、激しく激怒。

 凄まじいオーラと共に殺意の眼差しがこちらへ向けられる。


「いいだろう、そんなに早死にしたいのなら望み通りにしてやる!」


 ゴルドはもう怒りによる影響で俺以外見えてない。


 でもこれでいい。これも計算の内だ。


「殺す……殺す……殺す!」


 ゴルドは殺意むき出しの表情を浮かべながら、魔力を増幅させていく。

 その形相は鬼の如く迫力のあるものだった。


「や、やばいですよユーグさん! しーちゃん、完全に怒らせちゃってます!」


 脇ではまさかの挑発に慌てるリーフレットの姿が。

 だがユーグは一切顔色を変えずに、


「いや……あれでいいんだ」


「えっ……? どういうことですか?」


「あいつは意図的にゴルドを挑発したんだ。もちろん、相手がその挑発に乗るってことも想定してな」


「でも、わざわざどうしてそんなことを?」


「あいつがさっき言っていた通り、”一撃”で決めるためだ。そしてあいつは本当に一撃で決める気でいる」


「分かるん……ですか?」


「まぁね。あいつのあの眼は……本気の眼だ」


「本気の……眼?」


「うん。あいつが前に数万もの魔獣の大群を相手にした時と同じ、覇気に満ち溢れた眼だ。あの時は仲間だったはいえ、その圧倒的存在感に足が震えたもんだ」


 ユーグは続ける。


「でも、不思議と狂気や殺意などは感じない。ただひたすらに相手を圧倒できるほどの存在感をシオンは眼だけで体現していたんだ」


「眼だけで……」


 二人の会話の最中、異次元の魔力を持つ者同士は互いに火花を散らし合う。

 

「……覚悟はいいな?」


「そっちこそ」


 俺は聖威剣を構え、精神を落ち着かせる。

 

 全ては、この一撃のために……。


 魔力を高め合う中、言葉は一切生まれず、沈黙だけが場を支配する。

 そしてしばらく経った後、その時がやってくる。


「行くぞ! シオン・ハルバード!」


 先に沈黙を破ったのはゴルドの方だった。

 ゴルドは怒りに身を任せ、猛進してくる。


 俺もそれと同時に地を蹴り上げ、ゴルドへと接近。


「おりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 高らかに響く雄叫びと共に極太の腕から聖威剣が振り下ろされる。


 予想通りだ……!


 その攻撃を完全に見切り、かわす。


 そしてゴルドの胸元にはポッカリと大きな隙が出来る。


「貰った……!」


 胸元さえ付け入る隙があればこっちのもの。

 俺の聖威剣は予め狙っていた胸元へと勢いよく突き刺した。

 

「グハッッ!」

 

 噴き出る大量の血と共にゴルドは唸り声を上げる。

 だがゴルドの表情には余裕があった。


「む、無駄だ……! いくら同じことをやろうと俺には……!」


「いや……まだだっ! グランッ!」


『ああ!』


 俺はグランの特殊能力を駆使し、突き刺した聖威剣を通じてゴルドの体内に多量の魔力を流し込む。

 

「な、なにを……!?」


 次々にゴルドの中へと注ぎ込まれる魔力。

 その量に上限はない。


「い、一体どうしたというのだ! か、身体がッ!」


 注ぎ込まれる魔力と共に自らも極限までバフを重ねる。

 

 そう、これがグランの持つ特殊能力。


 解放の呪文の効果がある間は上限なしに魔力を高めることができる。


 言葉で表せば≪極限突破≫といったところか。

 

 魔力というものは攻撃や防御、魔法と言ったあらゆることを行使するためには必須なもの。

 

 要は呪文を発動している間はバフし放題、魔法打ち放題ということ。

 

 その代わり、呪文が解けた後の反動はそれなりに大きい。


 でも俺は元々多量の魔力を持つ人間。

 自身の体内では許容できないほどの魔力にまで高めない限り、反動が起こることはない。


 そして俺が胸元を狙ったのはこの能力を使い、ゴルドが許容できないレベルの魔力を流し込むため。

 

 理由は聖威剣を覚醒させるために必須である聖魂は必ず胸元にあるからだ。

 

 俺が考えた作戦というのは聖威剣を使って内側から聖魂が機能しなくなるまで魔力を流すというもの。


 ゴルドの持つ異常な回復力は聖威剣あっての能力。

 ということは聖威剣が機能しなくなればその恩恵は受けられないということ。


 だからこそ、聖威剣発動の(キー)となる聖魂ごと壊すという結論に至ったわけ。


「な、なぜだッ! 回復が……回復ができない!」


「お前の中にある聖魂は今俺が流している魔力の影響でオーバーフローしている。だから聖威剣の能力を使うことはできない」


「な、なん……だとッ!?」


 ちなみに俺が攻撃前にゴルドを挑発したのは肝心の胸元への侵入を楽にするため。

 

 こいつと数分戦って、巨体の割に素早く、防御もそれなりに堅いことが分かった。

 俺の速さを持ってしても一回しか潜り込むことができなかった領域だったわけだ。


 だからこそ相手を怒らせ、自ら隙を作ってくれるよう誘導した。

 

 案の定、ゴルドは怒り任せの大振りで大きな隙を作ってくれた。


「ぐぬ……うぉぉぉぉぉ! まだだ! まだ俺はァァッ!」


「無駄だ。今のお前はもう不死身じゃない」


「だ、黙れ! この俺が……この俺が人間如きに敗れるはずがァァ!」


 本格的に焦り出すゴルド。

 だがもう手遅れ。


 内側から粉々にできるほどの魔力はもう流した。


「はぁ……はぁ……はぁ……! 俺は……俺は負けんッ!」


 執念の足掻きを見せ、腕を動かそうとするも身体が思うように動かない様子。

 

 もちろん、慈悲はない。


 今こそ……自らの過去に決着をつける時だ。


「……さらばだ、ゴルド。安らかに眠れ」


 俺は冥土の土産に一言だけ添えると魔力の流れを加速(バースト)させる。


「ぐ、ぐわぁァァァァァァァァァッ!」

 

 同時にゴルドの身体は大きく膨らみながら――爆散。

 塵も残らずゴルドの持つ聖威剣ごと跡形もなく消え去る。


「お……終わった……のか……?」


『ああ。ゴルドの魔力反応は完全に消えた。出現していた魔獣たちも全て消滅したようだ』


「そう……か。よ……よか……った……」


『お、おいシオン! 大丈夫か! シオン!』


「し、しーちゃんっ!」


「シオン!」


 しかし誤算だったのは久しぶりの戦闘で身体が耐えられなかったということ。

 

 グランやリーフレットたちが心配する声は聞こえる。

 

 だが、身体が言うことを聞かなかった。


 俺は視界が真っ白になると、そのまま地へとドサッと倒れ込んだ。




 ♦




「ふむ、まさかあのゴルドがやられてしまうとは……」


 時を同じくしてベルガンの森のとある場所でその戦いの様子を見ていた者たちがいる。

 作戦決行前にゴルドと共に行動をしていた六魔の一人、ベルモットだ。

 

 ベルモットは執拗に顎を触りながらそう呟いた。


「ゴルドも地に落ちたもんだねぇ。まさかあんなガキ一人に畳まれちまうとは」


 そしてもう一人。

 ギラリと紅い瞳をチラつかせながら、森の影に潜む者が。

 

「しかし、あの少年の力はかなりものですよ。もしかしたら今後魔王軍を脅かす存在へとなり得るかもしれません」


「そうか? さっきの戦いを見る限り、大したことはなさそうだが」


「いいえ。あの少年はまだ、自らの持つ真の力を解放していませんよ。厳密には解放しきれていないと言った方が適切でしょうか」


「まだまだ強くなるって言いたいのか?」


「ええ、ですがこれはあくまで私独自の見解ですがね」


 決して冗談で言っているわけじゃない。

 ベルモットは本気でそう思っていた。


「へぇ~いつもは辛辣なお前がそこまで言うなんてねぇ。ま、この俺様にかかればあんな野郎一捻りだがな」


「そんなことを言っているようでは貴方もゴルドと同じ結末を歩むことになりますよ」


「けっ、そりゃどうだか」


 もう一人の魔人は意地汚く唾を吐きながら、そう言う。

 

「まぁ……どちらにせよあの少年がゴルドを倒したという真実は揺らぎません。一応あの方に今回の件はしっかりとご報告しておかなければなりませんね」


「ふんっ! 俺様がこの場でぶっ殺してやってもいいんだがな!」


 好戦的な態度をするもう一人の魔人にベルモットは、


「おやめなさい。そういう身勝手な行動が後々波紋を生む元凶となるのです。今は素直に下がり、しばらく様子を伺うのが得策です」


「そんなの俺様には――」


「やめろ! ……って言葉が聞こえませんでしたか?」


「ぐっ……!」


 途端に変わる声量とトーン。

 普段の爽やかな感じから一変して高圧的な態度へと切り替わる。


「ちっ……! わーったよ。これだから堅物は嫌いなんだ」


 舌打ちをしつつも素直に言うことを聞く。

 

「では、そろそろ戻るとしましょうか。これ以上の長居は無用です」


「ああ」


 二人の魔人は転移魔法を使うと、ベルガンの森から撤退する。

 

 こうして、一連の事件はシオン・ハルバードの活躍によって勇者軍側の勝利で幕を閉じたのだった。

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