33.自らの過去に決着を(前)
ベルガンの森の奥深くで互いに剣を持ち、対峙する二人の男。
俺の高まる魔力が大地を揺るがし、森全体を震えあがらせる。
「この感覚……久しぶりだな」
かつて自分が勇者として剣を握っていた頃のことを思い出す。
全身を駆け巡る魔力の流動。
強化されていくことによってピクピクと動く筋肉。
そして魔力の高まりと比例して全身が熱くなっていく感覚。
全てが懐かしい。
「す、すげぇ……なんだよこの充実した魔力は……!」
「まだ解放の呪文すら唱えていないのに……」
あまりの圧倒的魔力量に驚きを隠せないユーグとリーフレット。
でも全盛期と比べたらまだ弱い。
勇者を辞めてからも鍛錬は続けていたとはいえ、活動を辞めてからもう3年も経つ。
もちろん鍛錬の質は辞める前と後では違うため、やはりブランクは感じる。
でも逆に得た物もある。
そう、グランだ。
俺は高まっていく魔力をそのまま聖威剣へと流していく。
瞬間。
俺の中に眠る聖魂が覚醒し、自身の心臓部分と聖威剣が光り輝く。
そして全ての準備が整った時、俺は自らの持つ力の全部を――解放させた
「……≪解放せよ≫」
小さな声で解放の呪文を詠唱。
それと同時に充実していた魔力が渦を巻き、竜巻のような波動が発生する。
「……なるほど、確かにとんでもない魔力量だ。先ほどの自信は出まかせではないということか」
ゴルドは俺の姿を見るなり、笑みを浮かべる。
「だが……この俺の前ではどんな力であっても無力だ!」
ゴルドも一気に魔力を解放。
聖威剣を片手で構え、かかって来いと言わんばかりに手首を動かしてくる。
「余裕だな。なら……遠慮なく行かせてもらう!」
俺は地を抉り、姿勢を低く保ちながらゴルドへと接近。
瞬時に懐へと入り込む。
小細工はなし。
真正面から堂々と勝負を挑む。
「はぁっ!」
決して太くはない腕から繰り出されるは魔力を溜め込んだ強烈な一撃。
だがゴルドはそれを剣身で軽々と受け止める。
「なんだ、この程度か?」
「いや……本番はここからだ」
「ん……?」
次の瞬間。
俺から溢れ出る魔力が聖威剣に伝わり……
「な、なんだ……!? このパワーは!」
ジリジリとゴルドを聖威剣ごと押していく。
ゴルドも押し返そうと魔力を高めるが、ビクともしない。
俺はゴルドを押し続けると、瞬間的に魔力を飛躍させ、ゴルド諸共吹っ飛ばす。
「グッ……!」
自分の倍以上もある巨体は数十メートル先まで背面飛行。
俺はすかさず追撃に入る。
足腰の筋肉に負荷をかけつつ、吹っ飛んでいるゴルドへと急速接近。
しかしゴルドも負けじと態勢を立て直し、身体を起こす。
が……
「遅い……!」
態勢を立て直した頃にはもう既に俺はゴルドの真下へと入り込んでいた。
俺は剣を下から上へと勢いよく振り上げ、ゴルドの左腕を切断する。
「ぐあああああああああああッ!」
激しい悲鳴と共に噴き出す大量の血液。
その血がベトッと頬や服に付着する。
うわっ……気持ち悪い。
魔族特有のねっとりとした血だ。
勇者をやってた時も何度かこういうことを経験したことがあるが、やはり慣れない。
「あともう一本……!」
次の攻撃はゴルドの右腕のシフト。
息をつく間もなく剣を一回転させ、右腕を狙う……が、
「調子に……乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
向こうも先ほど俺がしたように瞬間的に魔力を高め、それによって生じた突風によって攻撃を回避。
俺も一旦、後ろに下がって臨戦態勢を整える。
「く、クソガキがぁぁッ!」
ゴルドは左腕から垂れ流れる血を抑えながら息を切らす。
今の一撃でかなり体力と魔力を消耗したようだ。
実際、高まっていた魔力はどんどん落ちて行っている。
もう奴に抵抗するほどの魔力は――
「ふ、ふはははははッ!」
突然。
ゴルドは左腕を抑えながら高笑いをする。
「……何がおかしい?」
そう質問する俺にゴルドは答える。
「俺をここまで痛めつけたのはお前が初めてだ。こんな苦痛……今まで感じたことがない!」
「……何が言いたい?」
「俺は昔から強い奴が大好きでな。強そうな奴は片っ端から勝負を挑み、殺していた。だから嬉しいのだ」
「嬉しい……?」
「ああ! ようやく自分を楽しませてくれる奴が現れたということがな!」
さっきの衝撃で頭のネジが数本吹っ飛んだのかと思いきやそうではない様子。
これこそがゴルドという男の本性。
根っからの戦闘狂だという真実。
「しかし驚いた。まさか俺を楽しませてくれる奴が勇者崩れのガキだったとはな」
酷い言われ様である。
てか俺を追放したのお前だし。
まぁこれで相手が相当なクレイジーだということは理解できた。
魔族ということもあるが、これで気兼ねなく殺傷することができる。
それに、このままあいつのペースに乗せられるわけにもいかない。
「お前の言いたいことはよく分かった。でも生憎だが俺はそんなに戦うことが好きじゃないんだ。悪いが一気に終わらせてもらう」
「面白い。やれるものならやってみるがいい。だが、俺ももう出し惜しみはするつもりはないがな」
「出し惜しみ……?」
その時、下がり続けていたゴルドの魔力は再び上昇。
聖威剣と共にゴルドも光り輝き、弱体していたはずのゴルドの身体は少しずつ息を吹き返していく。
『気をつけろ、シオン。さっきとは様子が違う』
「ああ、分かってる」
これが奴の本当の力なのか?
雰囲気もさっきとは少し違う。
「これが……俺の真の力だ! ≪解放せよ≫!」
解放の呪文と共に全身から溢れるゴルドの魔力。
だがそれだけではなかった。
「さ、再生した!?」
先ほど切り落としたはずのゴルドの左腕がいつの間にか再生。
与えた傷も綺麗さっぱりなくなっていた。
「まさか、これが奴の聖威剣の能力……!」
「ああ、そうさ。この力こそ、この俺が持つ最強の異能……」
……瞬間再生だ!




