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30/266

30.力を合わせれば

沢山のブクマ・ポイント評価ありがとうございます!!


 俺とグランは先を急いでいた。

 

「グラン、このデカい魔力の発生源はどこからなんだ?」


『この道を通ったすぐ先だ』


 グランの魔力探知の能力を使い、俺たちは視界の悪い森の中を駆ける。

 

 その時だった。


「ん、なんだ? 誰かがこっちに向かってくる?」


 グランもその気配に気がついたようで、


「シオン、隠れろ。何者かがこっちに向かってきている。しかも複数人だ」

 

 俺はすぐさま近くの木陰に身を潜める。

 そしてじっとその”何者か”の出現を待った。


 しばらくすると鎧を着て、立派な剣を腰に差す者たちが複数人姿を見せる。

 鎧に刻まれた紋章を見ると、それは勇者軍のものだった。


「勇者軍? どういうことだ?」


 この辺は非戦闘地帯のはず。

 それに周りには魔族の反応もない。


 なのに彼らは妙におかしかった。


 なんかこう……物凄く焦っているような感じというか。


「撤退命令でも出たのか?」


『分からん。だが様子がおかしいな』


 と、その勇者軍の兵士たちの一人が途端に足を止めた。

 しかもよりによって俺たちがいる目の前。


 しかし向こうは全く気がついていないみたいなので、俺たちはそのまま息を潜めることにした。


「副隊長、待ってください!」


 耳を澄ますとそんな声が聞こえてきた。

 止まった兵士が発した一言だ。


「どうした? 足を止めている暇などないぞ」


 その副隊長とやらが振り返りながら、そう言う。

 すると止まった方の兵士が、


「やっぱり、僕たちも一緒に戦いましょう! このまま逃げるだけなんて僕は満足できません!」


「これはユーグ隊長とリーフレット隊長が我々に出した命令だ。俺たちに口出しできる権限はない」


「ですが! いくらユーグ隊長たちであっても一度に数部隊を壊滅させるような上位魔族相手じゃ……」


 ユーグ……リーフレット?

 そうか、やはりあの二人もベルガンの森(ここ)へ来ていたか。


「愚か者が!」


「ッ!」


 考え事をしている中、誰かが引っ叩かれるような音が森に響く。

 殴ったのはその副隊長と呼ばれていた中年の勇者だ。


「お前が行ってなんになる! ユーグ隊長とリーフレット隊長は我々のことを想って先に帰れとおっしゃられたのだ」


「僕たちのことを……」


「それに撤退命令が出ている以上、我々下っ端は従うしかない。そういう言い分が許されるのはSクラスの勇者だけだ」


「くっ……!」


 顔を悔しく歪ませ、下を向く若き勇者に中年の勇者は静かに近づいていく

 そして若き勇者の肩にそっと手を乗せ、


「お前の気持ちはよく分かる。だが今回は力あるものの言うことに従うべきだ」


「……」


「それとこれはさっき伝達兵からこっそりと聞いた話なんだが、どうやら団長が先ほど単独で出陣されたようだ」


「……! リベルカ団長が!?」


「ああ。あのリベルカ団長が戦地に赴かれた。これが何を意味するか、分かるか?」


「敵はそれほどの相手……そういうことですか?」


「その通り。だから俺たちが今できることは早急に本部に帰り、俺たちが実際にこの二つの目で見たことを報告し、そして……団長たちが帰れる場所を守り抜くことだ」


「帰れる場所を……守り抜く……」


 若き勇者はその言葉に何かを思ったのかすぐに顔を上げ、


「……分かりました。僕も勇者の一人、自分の勇者としての誇りをかけて今やるべき役割を最後まで全うしようと思います」


「よし、その意気だ! じゃあ行くぞ!」


「はいっ!」


 若き勇者は元気よく返事をする。

 そして勇者たちは再び足を動かし始めると、素早くその場から去っていった。


 そんな一部始終を木陰からじっと見ていた俺たちは……


「グラン……」


『ああ』


「先を急ごう。取り返しがつかなくなる前に……」



 ♦



「ユーグ……リーフレット……!」


 リベルカは二人の姿を見て咄嗟に声を出す。


「大丈夫ですか!?」


「助太刀しますよ、リベルカ団長!」


 勢いを増した二人の聖威剣がゴルドの聖威剣を力づくで弾き返す。

 

「ちっ」


 ゴルドは仕方なく後退。

 間一髪のところで二人はリベルカを救出することができた。


「痛ぇぇぇ! 攻撃を受け止めただけでこれかよ……」


「わたしも手が痺れて言うことを聞きません……」


 ゴルドの一撃はそれほどまでに強烈だった。

 二人は聖威剣を手放すなり、手を揉み解し始める。


「貴方たち……一体なぜここに? 撤退命令は出しておいたはず……」


 後ろで片膝をつきながらそう驚きを見せるリベルカにユーグが答えた。


「ご命令通り、部隊は撤退させましたよ。これは俺たちの独断行動です。でも情報と少し違ったのは驚きでした。まさかリベルカ団長が出陣されていたなんて」


「わたしたちは部隊の全滅を聞いて応援に駆け付けた増援部隊に加勢するためにここまで来ました。周りを見た感じ間に合わなかったようですが……」


 二人は自部隊で起こったことを端的にリベルカに報告する。


「なるほど、そういうことでしたか。そこまでの数の魔獣が……」


「でも見たところその元凶が明らかになったようですね」


「ええ。あそこにいる魔人が全ての元凶。魔獣を召喚したのも……部隊を全滅させたのも全部」


 リベルカはゴルドの方を見ると、キッと睨み付ける。

 そしてユーグもまたゴルドの方を向き、


「でも驚いたな。まさかあの方がこの事件の黒幕だったなんて」


「どういうことです? ユーグさん」


 疑問に首を曲げるリーフレット。

 

 リーフレットは旧勇者軍の実態を詳しくは知らないため、ゴルドの存在も名前程度しか知らない。

 だがユーグは旧勇者軍の頃から所属していた勇者の一人。


 ゴルドのことはもちろんよく知っている。


 彼の性格から成る冷静さ故に驚いていないように見受けられるが、内心はその真逆だった。


「リーフレットちゃんは知らないかもしれないけど、あそこにいる魔人はかつて実力ある勇者として名を馳せていた男だ」


「ま、魔人が……勇者?」


「驚くのも無理はないよ。俺も今の状況を飲み込めずにいる。でも間違いない、あの男は元勇者軍団長、ゴルド・エンブラントだ」


「あ、あの人が……!」


 初めて見るゴルドの姿に圧倒されたか少し後ずさるリーフレット。

 確かにゴルドの存在感は今も昔も変わらず異常だ。


 目視できる力だけじゃなく霊気(オーラ)や覇気と見えない力も群を抜いていた。


 ユーグやリベルカ含め、周りの勇者たちにとっては圧倒的存在だったのである。


「ふん、とんだ邪魔者が入ったな。ま、雑魚が一人から三人に増えようがこの俺には関係ない。全て……完膚なきにまでにお前たち勇者を打ち砕くだけだ!」


 ゴルドの魔力はさらに飛躍する。

 それはもう常人なら考えられないほど。

 

 ユーグたちもその圧倒的力の前に立っているだけでも身震いするほどだった。


 でも……彼らはそれでも諦めてはいなかった。


「団長、やりましょう。俺たちが力を合わせれば何とかなるかもしれません」


「そうです。このまま野放しにはしておけません!」


 二人はやる気に聖威剣を握りしめる。

 だがリベルカだけは乗り気ではなかった。


「でも、これは私が決着をつけなければならない問題なのです。貴方たちまで巻き込むのは……」


「そんなことは関係ないですよ、団長。これは俺たちがやりたくてそうしているだけです」


「そうですよ。巻き込むというより自分から巻き込まれにいったって感じですね」


 少し笑いを含んだ言い回しをする。

 

 しかし二人の顔は真剣そのもの。

 覚悟を決めた面構えだった。


「二人とも……」


 そんな二人を見たリベルカはこれ以上、何も言うことはなかった。


 リベルカは気持ちを入れ替えると、再び聖威剣を握り立ち上がる。

 そして二人の方を見ると、静かにこう告げた。


「やりましょう。三人で力を合わせ、勇者軍を……輝かしい未来へと繋げるのです!」


「「はいっ!」」


 一致団結。

 三人はゴルドに切先を向けると、再び魔力を解放させた。

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