26.団長として
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
一章もそろそろ終盤になります。
これからもどうぞよろしくお願い致します。
追記:何度かご指摘をいただいた出禁設定ですが、色々と直さないといけないところが出てきたため、撤廃しました。
時は少し遡り、数十分前。
勇者軍本部ではある出来事が起こっていた。
「せ、戦地に赴かれるのですか!?」
「ええ。それが今、私が団長としてやれることです」
場所は団長室。
勇者軍を統率する女勇者、リベルカ=フォン・フィールドはそう言いながら専用の鎧を装着する。
そしてすぐ隣にいるのはそのリベルカを支える側近の一人。
勇者軍、副団長のアゼルだ。
「で、ですが……!」
アゼルは副団長でありながら今の勇者軍の運営や経理などの裏業務を一挙に引き受けている有能な幹部の一人。
緊急会議の時も発言こそしなかったが、裏方でリベルカの支援をしていた。
リベルカとは古くからの友人であり、ゴルドが勇者軍を率いていた時からの数少ない古参者でもある。
事件以来、崩壊寸前だった勇者軍を少しずつ建て直していけたのも彼の尽力あってのものだった。
だからリベルカの彼に対する信頼は非常に厚く、そして彼自身もリベルカのことを強く信頼していた。
「団長、考え直してください。今、本部を空けてしまったら誰が総指揮を執るのです!?」
「ごめんなさい、アゼル。でも……それでも私は行かなければならないの」
「どうしてです? 別に団長自らが行かなくても……」
「……違うの。これは私がやらないといけないことなの」
「だからどうして……どうしてリベルカが……!」
納得いかないアゼルはリベルカに強く問う。
いつしかその口調は団長とその側近という関係から友人としての関係へとシフトしていた。
だがそれでもリベルカは理由を言わなかった。
「アゼル。ここの守りはあなたに任せたわ」
「ちょっ、待ってくれリベルカ! だったら俺も行く! お前ほどの力はないけど、俺だってお前と同じ勇者なんだ!」
アゼルはリベルカの行く手を阻みながらもそう話す。
しかしリベルカは静かに首を振り、
「駄目よ。あなたは元々戦闘が得意なタイプじゃない」
「で、でも……!」
「それに、あなたまでここを離れたらここの守りはどうするの?」
「そ、それは……」
言葉を失うアゼル。
そんなアゼルの姿を見て心を痛めつつもリベルカは、
「勝手なことだって自分でも分かってる。でも今回は……今回ばかりは私の我儘を聞いてほしい」
一瞬たりとも表情を変えずただアゼルの目をじっと見ながらリベルカはそう話す。
その真剣そのものの眼差しを見てアゼルは何かを悟ったのか、
「……訳あり、のようだな」
アゼルのこの一言にリベルカは小さく頷く。
「……分かった。お前がそこまで言うなら俺はもう止めない」
その眼差しに何か深い意味を見出したのかアゼルはすんなりOKを出す。
「でも、一つだけ約束してほしいことがある」
「……約束してほしいこと?」
「ああ、それは――」
アゼルはここで一息つき、リベルカの目を見る。
そしてそっと口を開くと、
「絶対に……死ぬな。必ず、帰ってきてくれ」
アゼルの想いは全てこの一言に込められていた。
それはただ純粋に無事に帰ってきてほしいという願いだった。
「分かった、約束する。絶対に無事に帰ってくるって」
リベルカは慣れない笑顔を向けてアゼルにそう返す。
アゼルもそれに応えるようにニッコリと笑みを見せる。
「……ったく、昔から変わらないよなリベルカは。やめろって言っても自分の意見を曲げないんだから」
「ご、ごめんなさい」
「別に怒っているわけじゃない。ただ単に俺は一人の友人としてお前が心配なだけだ。なんだかんだいって数年来の付き合いだからな」
「アゼル……」
リベルカは申し訳なさそうに俯く。
「お、おいおい。そんな顔するなって。なんか余計に心配になるじゃねぇか」
「ご、ごめん」
リベルカはすぐにキリッとした表情へと切り替え、アゼルを見る。
そして作業用デスクのすぐ後ろにある専用の剣立てから自らの聖威剣を手に取ると、
「アゼル……後は頼みましたよ」
「ああ、任せておけ!」
リベルカは剣を垂直に立てる。
自らの心の中で複雑に混ざり合う感情を抑え、彼女は静かに解放の呪文を詠唱する。
「……≪解放せよ≫!」
瞬間。
彼女の持つ聖威剣の特殊能力である瞬間転移が発動。
その場から瞬時に移動し、リベルカは一人、戦地へと向かったのだった。




