24.Sランクの力
二人の勇者の魔力は”解放の呪文”と共に高まっていく。
二人の持つ聖威剣は神々しい光りを放ち、その光が二人を包み込む。
その姿は見るものを圧倒させ、充実した魔力の渦が視認できるほど。
もはやもうこの二人の間には虫一匹すらも介入できる余地はない。
まるで怯えているかのように地面が揺れ、二人はその充実させた魔力を魔獣たちへ向けて解き放つ。
「はっっ!」
ユーグは聖威剣を勢いよく地面に刺し、魔力を剣を通じて地に流し込む。
「くらえ! 魔獣ども!」
瞬間。地に流し込まれた魔力が電撃のように魔獣たちを襲い一体から二体、二体から三体へと伝播していく。
魔獣たちは突如巻き起こる電撃に驚く隙もなく、次々に燃やしつくされていった。
ユーグの聖威剣が持つ特殊能力は主に範囲攻撃。
魔力をため込み、それを聖威剣に流し込んで一気に放出させることで広範囲に渡って相手を無力化させることができる。
範囲は所有者が指定することができ、やろうと思えば辺り一面を瞬時に更地に変えることだってできる。
まさに一撃必殺の攻撃手段である。
「じゃあ、次はわたしたちの番だね。行くよ、ヴァイオレット!」
『ええ!』
リーフレットはぎゅっと聖威剣を握り、勢いよく地を蹴り上げる。
そして瞬時に魔獣たちへと接近する。
「やぁっ!」
細くか弱い腕から繰り出されるは音速の如く速く激しい剣撃。
これはリーフレットの持つ聖威剣の能力。
自身の身体能力を一定時間、極限にまで強化をし、音速的立ち回りを可能とさせる特殊能力だ。
ユーグとは違い攻撃型の能力ではないが、彼女自身が元々持つ剣術の才能とうまく調和し、能力以上の効果が発揮されている。
その一撃一撃はもはや人には視認不可能なまでの超次元的な速さで魔獣たちは抵抗することもできずに切り裂かれていく。
「――す、すげぇ……あれがSランクの力か」
「――ば、バケモンだ。ありゃ……」
「――この調子じゃ、俺たちの出番いらなくね?」
外側からその姿を見守る他の勇者たちは目を丸くしながらそう話す。
彼らにとって、もはや二人は別次元の強さなのである。
二人は無双の如くその力を振るう。
そして瞬く間に魔獣の数は減っていき……
「……ふぅ、ようやく片付いたってところかな?」
「そのようですね。周りを見ても魔獣の気配は感じられません」
完全掃討。
二人はたったの数分で数千を超える魔獣の討伐を完了させる。
「でも、少しやりすぎちまったかな……」
「後で間違いなく環境保全団体に付け回されますね、これは……」
多少加減はしたとはいえ、ユーグの範囲魔法の威力は絶大なもの。
ほんの少しだけ魔力と聖威剣の力を開放させただけでも辺りは軽く焼野原と化していた。
「ま、とりあえずそのことは後で考えればいいさ。それよりも……」
「別動隊が無事かどうかってところですか?」
「うん。とにかく今は他の部隊と合流したほうがよさそうだ。今回の件に関しては情報量が圧倒的に少ないからね。出現した魔獣の数も想定より大幅に多いみたいだし」
「そうですね。情報の相違点が出ている以上、このままわたしたちの部隊だけで進行するのは危険ですね」
二人の冷静な判断により先へ進むことは断念。
一度他の部隊と合流することに。
「なら、そうと決まれば早速行動に――」
「ユーグ隊長、リーフレット隊長!」
と、その時だ。
突然背後から二人の名を叫びながら走ってくる兵士が現れる。
姿恰好からして恐らく伝達兵だ。
「た、大変です!」
その兵士はかなり慌てているようで汗だくになりながら、二人の元へと駆け寄ってきた。
「お、おい……どうしたんだ? そんなに慌てて」
「と、とりあえずお水を……」
リーフレットは懐から支給品である水袋(未使用)を取り出し、その兵士に与える。
「す、すみません……」
兵士は一礼をし、水袋を受け取るとゴクゴクと水を飲み始める。
そして息を整え、心を落ち着かせると、
「ユーグ隊長、リーフレット隊長。大変なことになりました」
「大変なこと?」
「はい。その……別動隊で動いていた3部隊のことなんですが……」
その3部隊とはユーグ隊、リーフレット隊の他に別の経路から調査任務にあたっている部隊のこと。
もちろん、部隊はそれぞれSランクの称号を持つ勇者が牽引している。
「他の部隊がどうかしたのか?」
ユーグの質問に兵士は言いにくそうに口を尖らせる。
しかし兵士は再び息を整え、サッと顔を上げると、真剣な顔つきでユーグたちに状況説明を行った。
「その、3部隊が何者かの介入によって壊滅……させられました」
「なっ、なんだと!?」
「そ、そんな……!」
思わぬ報告に二人は唖然。
二人の驚声が森中にこだまし、不穏な空気が辺りを包み込んだ。
 




