23.解放されし力
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「おりゃぁぁぁぁっ!」
青年の鍛えあげられた太い腕から繰り出される剣撃は魔獣を一瞬にして一刀両断する。
「さすがです! ユーグさん!」
「おう! この程度、容易いもんよ」
「でも油断は禁物です。今のところ優勢ではありますが、戦場では何が起こるか分かりませんからね」
「心配しなくても分かってるって! 上位魔族級のアホみたいな強さを持つやつが出てこない限り、苦戦はしないだろうからよ」
がはははっと盛大な笑い声を上げるユーグにハァ……と小さく溜息をつくリーフレット。
だがユーグの強さは本物だ。
さっきから一人で数十体の魔獣を相手にしていても息切れ一つすらしていない。
表情も強張らず終始笑顔で動きも全くもって無駄がなく軽快だ。
戦い慣れをしているということがすぐに分かる。
「さぁどんとこい! このユーグ様が相手になるぜ!」
調子が出てきたのか聖威剣をブンブン振り回しながら、魔獣たちに挑発する。
リーフレットはその背後で黙々と魔獣駆除を行っていた。
でもどういうことだろうか。
どれだけ倒してもまるで道端に生えている雑草のように次から次へと敵が湧いて出てくる。
リーフレットとユーグはともかく、周りの勇者たちは少しずつ疲労が見え始めてきていた。
その様子を見たリーフレットはすぐにユーグの方へと駆け寄り、
「ユーグさん、他の人たちが……」
「結構疲労が出てきているね。魔獣たちの勢いもさっきよりも増しているみたいだし……」
ユーグも周りの状況に気がついていた。
このイケメン、こう見えても指揮官としては有能なのである。
他の勇者と比べて戦闘力ももちろん高いが、戦況把握能力の高さや周りの状況に誰よりもいち早く気がついたりと戦闘以外の技量もそれなり。
おちゃらけた言動こそ多いが、そういった能力はリーフレットを含める他の勇者たちからも支持されているのでこうして部隊長として任命されることが多いのである。
「にしても、まさかこれほどの数がいるとはね……」
「わたしも想定外でした。ゼクスギルドマスターは推定3000体ほどだと言っておられましたが、恐らくその数よりは……」
「圧倒的に多いね」
二人はまだ余裕を見せているが、他の勇者たちの中には剣を立て息を荒立てている者もいた。
そんな様子を見たユーグはリーフレットに、
「リーフレットちゃん、そろそろ一気に決めよう」
「一気にって……聖威剣の力と魔力を解放するんですか?」
「うん。最初は様子見で相手の出方を探りたかったが、部隊員に負荷がかかるような長時間戦闘はできるだけ避けたい。それに、他の部隊の動向も気になるしね」
マジメな顔をしてそう言うユーグ。
その意図を察したのかリーフレットは小さく頷き、
「……分かりました。確かに長時間の戦闘は避けた方がよさそうですね。相手の数が未知数な以上、探りを入れるのもリスクを伴いますし」
「よっしゃ! じゃあ、そうと決まればいっちょ派手にやっちゃいますか!」
「はい!」
部隊のリーダー同士の意見がここで合致。
すると二人はすぐに自分たちの部隊員に後退するように命令する。
自分たちの力で魔獣もろとも仲間を巻き込まないようにするためだ。
「リーフレットちゃん、準備はいいかい?」
「はい、わたしならいつでも」
「よし! んじゃっ、早速やるとしますか……」
二人は背中合わせになり、聖威剣を構える。
空気は一変し、二人の眼は先ほどの戦闘とはまるで違う鋭い眼へと変わる。
そして邪に満ちた紅い瞳をチラつかせる魔獣たちの様子を伺いながら――二人の勇者は聖威剣を解放するためのある合言葉を言い放った。
「「聖なる魂よ、今こそ剣となり盾となり、我に眠りし真の力を呼び覚ませ! ≪解放せよ≫!」」




