215.無意識
ユーグとの一戦の後、俺たちは病室へと戻っていた。
「なんかユーグくん、見違えるほど元気になったね」
「だな」
「何かしたんでしょ?」
「いや、別に何もしてないぞ」
「またまたぁ~わたしの目は誤魔化せないよ」
リーフがニンマリと笑みを向けてくる。
「大したことはやってないよ。ユーグは自らの意志で壁を乗り越えたんだ」
俺はその橋渡しを手伝ったに過ぎない。
乗り越えたのは彼自身なのだ。
「ふふっ、やっぱり何かしたんだ」
「きっかけを作っただけだ」
「でもそれだけで人は救われるものなんだよ。わたしだってしーちゃんと再会できてから、救われたこともたくさんあったし」
「そうなのか?」
「その様子じゃ、自覚は無いみたいだね」
「すまん……」
「謝ることじゃないよ。いつもありがとうね」
リーフは俺の手にそっと手を添えると、ニコリとほほ笑んだ。
「リーフ……」
俺はその手を片方の手でそっと包んだ。
「しーちゃんはこれからどうするの?」
「工房に戻って作業を進める予定だ。そろそろ進めていかないといけないからな」
「そっか。今のしーちゃんはそっちが本業だもんね」
「ああ、あまり工房をあけているとお師匠様も心配するしな」
「あまり無理はしちゃだめだよ?」
「大丈夫だ。その時はリーフに看病してもらうからな」
「もう……!」
そんな話をしていると、周りの視線が俺たちへと向けられる。
「ひゅ~相変わらず見せてくれるねぇ」
「ホント、ラブラブ」
「シオンくん! キミにはリィナちゃんというものが……ぐはっ!」
「病室で堂々とイチャつくなんて、お盛んなねぇ~」
皆、ニヤニヤしながらこっちを見てくる。
ガロさんに至ってはリィナからボディーブローをくらっていたけど……
「い、イチャイチャなんて……してない……よね?」
「お、俺に聞くな!」
「でもその手を見れば、誰だってそう思うでしょ?」
「「手……?」」
俺とリーフは互いの手を見つめる。
お互いに重ね合わせた手に、俺たちの意識は完全にそっちに傾いた。
「い、いやっ……これはその……!」
「え、えっと……その……!」
俺とリーフはすぐさま手を退けると、互いに別の方向を向く。
完全に無意識だった。
多分、向こうも似たような感じだと思うけど……
「いやぁ~シオンくん。これはもう近いかもしれませんなぁ~」
気持ち悪い微笑みを向けながら、ユーグが肩を回してくる。
「近いってなにが?」
「何がって、決まってるだろ?」
「だからなんだよ」
「はぁ……お前マジか。鈍感もここまで行くと神がかりだな」
呆れるユーグ。
「でもまぁ、そのうち時が解決してくれるでしょう。うんうん」
「だから、何が?」
「それは自分で考えなさい。教えたらお前の為にならないからな」
ユーグは俺の肩をポンと叩くと、意味深な笑みを浮かべる。
「全く、なんなんだよ……」
俺は再びリーフの方を見ると、女性陣に囲まれていた。
その隙間から見えた彼女の顔は真っ赤に染まっていた。




