214.相棒
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「勝負あったな」
吹き飛ぶ剣を見て、ユーグは剣を地面に置く。
そのまま尻を地につけ、ガックリと項垂れた。
「負けた……か」
俺はユーグにそっと手を差し伸べた。
ユーグは俺を見ると、何かを思い出したかのようにフッと笑みを零した。
「あの時もこんな感じだったな」
「ああ……」
「あの時は無言だったけどな!」
「人付き合いが無の時だったからな」
今でもそれは変わらないが、軍に入ってからは少しはマシになった。
それ以前はもう、酷いもんだったけど。
でもあの時は自然と手が出ていた。
当時のことはよく覚えていないから、どうしてそうしたのか分からないけど。
「でもやっぱりお前は流石だな。まだ現役をやっている俺をこうも簡単に負かすとは」
「簡単なわけあるか。俺だって一歩間違えていたら負けてたよ」
「世辞はいいさ。実際、お前の強さは常軌を逸している。今も現役で勇者やってたらそれこそ、英雄以上の存在になっていたんじゃないか?」
「それはどうだろうな」
仮の話なんて考えたこともなかった。
最も、あの時の俺はそんなことなど考えている余裕なんてなかったし。
「ったく、相変わらず冷静な男だな。お前は」
そう言いながら、ユーグは俺の手を取る。
ゆっくりと起き上がり、埃を払った。
「はぁ、なんか動いたら気分がスッキリとした気がする。さっきまでなんか落ち込んでいた気がするんだけどな……」
「気のせいだ」
「そっか、気のせいか! あははは……ってんなわけあるかっての」
「……まだ不安か?」
から笑いするユーグに問いかけると、
「完全にモヤモヤがとれたわけじゃない。けど、さっきよりも少し楽になったのは本当だ」
「そっか。なら良かった」
ユーグの悩みは多分俺が思っている以上に深いのかもしれない。
だからさっきの一戦で全てチャラになるなんて都合のいいことは考えてはいない。
少しでもユーグの心が軽くなれば、それでいいのだ。
「ありがとうな、シオン。色々と気を遣わせちまったみたいで」
「俺とお前の仲だろ? 今更何言ってんだよ」
「ふっ、それもそうだな」
ユーグは微笑むと、今度は向こうが手を差し出してきた。
「シオン、これからもよろしくな」
「こちらこそ」
ユーグの手をガシッと握る。
ユーグと会った時以来の久々のシェイクハンドだ。
「まぁお前はもう勇者じゃないけど……」
「別に勇者じゃなくても、軍に関りがないわけじゃない。それに俺だってもう引き返せないところまで首を突っ込んでいるんだ。ここまできたら最後まで付き合う予定だ。リベルカ団長との契約のこともあるしな」
「そうか。なら当分勇者軍は安泰だな! 俺も少しは楽できるってもんよ!」
「バカ言え。そんなこと言ってたら、団長に張り倒されるぞ」
「間違いない」
その後。
俺たちはしばらくの間、過去のことについて語り合った。
初めは沈んでいたユーグも段々といつもの調子を取り戻してくれた。
「さて、そろそろ帰らないとみんなが心配する。行くぞ、相棒!」
「……ああ」
ユーグはそういうと軽やかに病室へ戻っていく。
「相棒か……」
俺はその言葉を胸にしまうと、ユーグの後を追いかけるのだった。




