212.ユーグ戦1
「ここだ」
「ここは……病棟のリハビリ施設か?」
広い空間に二つの影。
俺たちは同じ病棟内にあるリハビリ用施設にいた。
その名の通り、患者たちがリハビリをするための運動施設だ。
俺たちはその中の大体育館に来ていた。
「シオン、こんなところにつれてきて何をしたいんだ?」
「ん、分からないか?」
俺は真っ直ぐにあるところまで歩くと、長い木刀を二本手に取る。
リハビリに使うために作られた少しだけ特殊加工されたものだ。
「さて、早速始めるか。ユーグ」
俺はもう一本の木刀をユーグに投げた。
「お前、始めるってまさか……」
「ああ、そのまさかだ」
俺は木刀をユーグに向けると、
「ユーグ、俺と戦え」
彼の眼をまっすぐ見て。
俺はそう言い放つ。
ユーグはそんな俺を見ると、フッと軽い笑みを浮かべた。
「そういうことか。なるほど、お前らしいやり方だな」
俺らしいか。確かにそうかもしれない。
実際に、これ以外の方法は思いつかなかったからな。
「それに、たとえ俺が断っても無理やり強行するとみた」
ユーグは俺の雰囲気を感じ取ったのか、推理を始める。
「流石はユーグだな。俺のことを分かっている」
「分かるさ。お前のその目を見ればな。何も言わなくてもそこから熱いパトスを感じるよ」
そんなに情熱的な目をしているのか?
まぁ、本気なのは間違いではないが。
「いいだろう。その決闘、乗ってやる」
ユーグは木刀を俺に向け、そう返答した。
「決まりだな」
互いに木刀を握り、一定の距離まで離れる。
「ルールは?」
「簡単にどちらかが参ったっていうまでにしよう」
「ふっ、分かりやすいな。別に俺はなんでもいいけどよ」
構えるユーグ。
俺も剣先をユーグに向け、集中を始めた。
「こうして、訓練以外でまともに剣を向けあうのは久しぶりだな」
「ああ、勇者軍に入って初めての技能考査以来だ」
初めて会ったあの日。
勇者としてのキャリア歩み始めた時の最初の相手が彼だった。
「結果は……」
「俺の圧勝だ」
「ちぇっ、堂々と言ってくれるぜ」
「でも今回はどうなるか分からない。あれからお互いに成長したからな」
ユーグに関しては俺がいない間も鍛錬を重ねていただろうから、なおのことだ。
まぁ、負けるつもりはさらさらないが。
「お前には空白の期間があるのに、随分と余裕そうだな」
「そう見えるか?」
「全身からあふれ出ているよ」
ユーグはそういうと低く身を構えた。
「でも今回はあの時みたいに無様な負け方はしねぇ。喧嘩売られた以上、全力で買ってやる」
ユーグの表情が一瞬にして変わる。
いつものようなヘラヘラとした彼ではない。
勇者として、一人の戦士として彼の顔だ。
「……来い、ユーグ!」
俺が煽ると、ユーグは剣を縦に構える。
いつもは見せない闘志の顔が、彼を戦士モードへと切り替えた。
「行くぞ……シオン!」
ユーグはそう叫ぶと、俺の腹部めがけて突進してくるのだった。




