209.美人医師
「あら、あらららっ! そこにいるのはシオンじゃなぁい!」
その声を聞いた瞬間、過去の記憶の一部が呼び覚まされる。
聞き覚えのある声だったのだ。
当時のイメージが頭の中にすぅ~っと入ってくる中、俺は後ろを振り返った。
「やはり貴方でしたか。ロサリアさん」
「んもうっ! 前にも言ったけど、私のことはロサリーって呼んでくれていいのに。でも、その様子だと覚えていてくれてたみたいで安心したわ」
うふっと笑みを浮かべる。
彼女の名前はロサリア・シンセサイザー。
勇者軍専属のドクターであり、医療班の統括を務めている人物だ。
かなり凄腕の医療技術を持っており、彼女の手にかかればどんな重患者も治せると言われていたほど有名な人だ。
ラベンダーを彷彿とさせる美しい髪と同じ色の瞳を持ち、スタイル抜群のその容姿はまさに完璧美女と言ったところ。
当時から美しい人だなとは思っていたけど、3年経った今ではその美しさが更に際立っている気がする。
歳を重ねるごとに美しくなる人っているみたいだけど、こういう人のことを言うんだろうか。
「シオンくん、この美人でイカしたねーちゃんとは知り合いなのかい?」
「ええ、昔からの知人で……」
「ロサリアと言います。この施設で専任医師をしています」
「お、おぉ……あ、自分はガロと言います。飲食店を経営してます」
おろおろするガロさん。
大柄なはずの見た目がどこか小さく感じる。
それに口調もいつもより丁寧になっているし……
(これが、美人パワーか……)
「ところでキミはこんなところで何を?」
「お見舞いに来たんです。ここにリーフ……リーフレットたちがいるとリベルカさんから聞いたので」
「ああ、あの子たちね! 確かにここにいるわ。良ければ案内するけど」
「お願いします。ガロさんも付き添いとして中に入れても大丈夫ですか?」
「私が許可証を出しておくから問題ないわ」
「ありがとうございます」
そんなわけで。
俺たちはロサリアさんにリーフたちがいるところまで案内してもらうことになった。
「本当に久しぶりですね。最後に会ったのは3年前ですか……」
「うふふっ、キミからしたらそうかもしれないけど、私はほんの少し前にご対面してるのよ」
「え、いつの話ですか?」
「キミが元団長と殺り合った後よ。あの後、この施設に送られて検査を受けてたのよ。もっとも、その時のキミは意識を失っていたけどね」
「ああ……あの時か」
俺がゴルドと戦った時の反動で意識を無くしていた時だ。
初めて目が覚めた時にはリーフの部屋にいたから、その前に俺は検査でロサリアさんと会っていたということか。
「その節はお世話になりました」
「いいのよ。怪我した患者を診るのが、医師の仕事ですもの。それに3年前の時は決して貴方を治療することは出来なかったから、色々と……ぐふふふふっ!」
なんだ、なんか違和感がある笑いだぞ。
なんかこうマッドな感じというか、医者としてあるまじき顔になっていた。
「え、えっと……ロサリアさん?」
「ああ、ごめんなさい。何でもないわ。当時のことを思い出したら、ちょっとヨダレが出てきちゃって」
何を思い出してたんだ、この人は……
それにまだ隠しきれていない笑みが妙に怖い。
もしかしてロサリアさんって結構闇が深い人なのか?
思い返してみれば、3年前にもなんか色々な噂が出回っていたような……
「着きましたよ。ここです」
ロサリアさんは一室の前で足を止めるとそう言った。
そして小さくノックを二回すると、扉を開けた。
「皆さん、お身体の調子の方はどうですか?」
「あ、ロサリーさん!」
初めに飛んできたのはリーフの声だと分かった。
向こうも俺たちが部屋に入り、その姿を認識すると。
「し、しーちゃん?」
「ま、マスター!」
少し驚きながら、リーフとリィナが口を開いた。




