201.影の中で
シオンたちが魔物退治に勤しんでいた頃。
異空間から彼らの姿を見ている者たちがいた。
「あれが、シオン・ハルバードかい?」
「そうです。彼がゴルドとバルガを倒したという元勇者です」
「へぇ、あの二人を……」
煙管を手に持ちながら、シオンの戦闘をじっと見つめる。
「確かに、彼なら倒しても可笑しくはないね。ここから見ていても、破壊のオーラがぷんぷんするよ」
「それはヴァンゴッド様でも手を焼くほどですか?」
「はははっ、どうだろうね。流石の僕も一度戦ってみないことには分からないかな。なんたって六魔の中でも一番血の気の多い二人を始末しちゃったんだから」
「珍しいことで。いつもなら「余裕かなっ!」とおっしゃられるのに」
「流石に今回はそうも言えないよ。君だってもう二回失態を犯しているじゃないか。ベルモット」
「お恥ずかしい限りで……」
「でも、大してお咎めなしだったということは、前回の一件で何か収穫があったってことだよね?」
「ええ、最低限の任務はこなしましたので。それに前回の一件はバルガの独断専行もありましたからね。端的に言えば自業自得ですよ」
「はははっ、中々手厳しいね。流石は六魔一の頭脳派だ。上手く立ち回っているね」
「お褒めに預かり、光栄です」
ヴァンゴッドは煙管を吹かしながら、再びシオンの方へ目を向ける。
「じゃあ、僕はそろそろ行こうかな」
「彼らのお相手をするのですか?」
「それも面白そうだけど、今回はご挨拶だけかな。僕がここでやりあっちゃうと六魔の子たちの出番がなくなっちゃうからね」
ヴァンゴッドは立ち上がると。
異空間と外界を繋ぐ扉を生成する。
「わざわざ案内してくれてありがとうね。君が作ってくれた環境も、僕の勉強の役に立ったよ」
「そう言っていただけて嬉しく存じます。ですが、一つお言葉を申し上げさせてもよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
シオンたちの元へ向かおうとするヴァンゴッドに、ベルモットは口を開いた。
「貴方様が直截挨拶をしにいく必要があるのでしょうか? 貴方様は我々とは違い、何かとお忙しい身分です。情報ならば、我々六魔が収集してご報告させていただいた方が良かったのでは?」
「まぁ確かにそうだけど、僕は他の四人と比べてそこまで忙しくないからね。序列五位の僕に出来ることなんて、たかが知れてるし、僕が動かなくても有能な四人がやってくれるから」
ヴァンゴッドはここで一拍置くと。
「それに、僕は情報よりも自分の眼で確かめたいタイプなんだ。だって、その方がワクワクするじゃん?」
「は、はぁ……」
「だから僕は君に案内を頼んだんだ。ついでに彼らを誘き出す為の環境も整えてもらってね」
「そうでございますか。申し訳ありません、出過ぎた真似を」
「いいよいいよ。今回の件はガルーシャ様にも許可は頂いているしね。だから心配はいらない。それに君が今一番心配すべきなのは自分がしなくてはいけないことの方なんじゃないかな?」
「おっしゃる通りで」
ヴァンゴッドは頭を下げるベルモットに笑みを浮かべると。
「君は確かに有能だ。でも、どんなに優れた魔族でも失敗すれば無能と同じさ。僕も強く言える立場じゃないけど、あまりガルーシャ様を失望させないでね」
「はい。強く心得ておきます」
「ならよし! んじゃっ、僕は行くね。『統べる者』の代表として、しっかりと挨拶をしてくるよ」
「行ってらっしゃいませ……ヴァンゴッド様」
異空間の扉を開き、ヴァンゴッドの身体は吸い込まれるようにして闇の中へと消えていく。
その姿が完全に消えるまで、ベルモットは頭を下げ続けた。