198.魔物出現
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「――魔物だ! 魔物が出たぞ!!」
その声が園内にこだまし、遠くにいた観光客に次々に伝播していった。
俺たちもその内の一人。
その声を聞いた途端に、身体が跳ね上がるように動いた。
「魔物って……こんなところに?」
「でも、確かに邪悪な魔力を感じる。さっきは全然気づかなかったけど」
「とにかく魔物が出たのが本当のことなら、マズイな。俺、ちょっと様子を見てくるわ」
「わたしも行く」
「え、でも……」
「わたしならもう大丈夫。それに、この非常事態に勇者であるわたしが休んでいるわけには行かないから」
目をキリッとさせ、訴えかけるように彼女はそう言ってくる。
そこにはもう、さっきまでの女の子としてのリィナではなく、いつもの凛とした勇者としてのリィナの姿に戻っていた。
こうなった彼女はもう何も言っても聞かない。
「分かった。……行くぞ!」
「うん」
頭を完全に勇者モードに切り替えたリィナと共に。
俺たちは叫び声のした方向に真っ直ぐ進んでいく。
すると。
「うっ……!」
「リーフレットちゃん! 大丈夫!?」
「大丈夫です! それよりも皆さん気をつけてください。これは、ただの魔物じゃないみたいです」
数十メートル前方を見ると、剣を抜き、構える勇者軍の姿があった。
下っ端を扇形に配置し、指揮をしながら、前線で戦闘をしていたのは、俺たちもよく知る二人。
リーフレットとユーグだった。
「リーフ!」
「ん……えっ、しーちゃん!? なんでこんなところに」
「しかもリィナちゃんまで……」
背後から突然思わぬ人物に声をかけられた、みたいな反応をする二人。
しかし今は戦闘中。
俺は意識を魔物に持っていくよう、促す。
「諸々の話は後だ。それよりも今は先にこいつを片付けないと」
「そ、そうだね。でも気を付けて、しーちゃん。こいつ、結構強い!」
「ああ、そうみたいだな」
リーフほどの実力を持つ人間に強いと言わせるのだ。
ただの魔物じゃないことはそれだけでも分かる。
だがそれを裏付ける理由がもう一つあった。
(やたらと魔力が充実しているな。それも不自然なくらいに……)
魔力というのは本来一定の”波”があるものだ。
それは人間も魔物も変わらない。
命持つ者に魔力を完璧に一定に保つことは不可能に近い。
波があるからこそ、魔力を高めたりすることが可能なのだ。
だがこいつの場合、その”波”がない。
高水準の魔力量が一定に保たれている。
言葉で言うなら、機械的と言えばいいか。
要はこいつからは命を感じないということ。
そして恐らく、裏でこいつらを操っている輩がいることが予想できる。
あくまでこれは俺の憶測でしかない……
が、もしそうだとしたら、早急に駆除しないと、一般市民が危ない。
ここはただでさえ、人が多い上に広大な場所なのだ。
まだ魔物を存在を知らない観光客もいる。
もし、この場所以外でもこんなのが現れたら、被害は尋常じゃないものになるだろう。
だからこそ、スピードある対応が今は必要だ。
せっかくの楽しい場所が血で染まるような光景は見たくはないからな。
「ったく、どこの誰の仕業だが知らないが、面倒なことをしてくれたもんだ。リーフ、サブソードを貸してくれ。俺が一気にかたをつける!」
「う、うん。分かった!」
「おいおいシオン、なんか一人でやる気みたいだけど、俺たちのこと忘れてないだろうな?」
「わたしたちも援護する。シオン一人だけに美味しい想いはさせない」
「ああ、もちろん忘れてないさ。頼むぞ二人とも!」
「おうよ!」「うん」
楽しい遊園地デートから一変。
俺はいつもの相棒……ではなく、リーフから借りた短剣を手に取ると、その刃を魔物へと向けるのだった。