195.緊急事態発生
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彼女はお化け屋敷が苦手らしい。
確かに入園前に見たマップのルートにはご丁寧にここまでマークされていなかったのを思い出した。
最初は何故この部分だけマーキングが全くされていないのだろうと思っていたが、その謎がようやく解けた。
「次の方、中へ……」
待機列から抜けると、不気味なオーラを放ったキャストさんが迎えてくれる。
そして別室に誘導されるとまた別のキャストさんが俺たちを待っていた。
「ようこそ、シュバイツァーの館へ。歓迎いたします」
これまた不気味な風貌のキャストさんに歓迎される。
完璧な雰囲気作りだ。
「我が主の館にご入館される前に少しだけ注意事項がございます」
そう言われ、しばらくキャストさんから注意事項を聞くと、謎の球体のようなものを渡された。
「これは?」
「この館の案内をしてくださいます。というのも館内は迷宮化しておりまして、これがないと外の世界に出られないのです」
「で、出られない……? 帰ってこれないってこと?」
「ええ。もし無くしてしまったら、この先の人生この館で過ごすことになるかもしれません。なので決して無くすことのないように……」
無くすなよという圧が声色から感じ取れる。
これもまたマニュアルに沿った演技なのだろうが、俺の隣人はただならぬ状態になっていた。
「し、シオン。や、やっぱりここは止めておいた方が……で、出られなくなったら色々困るし!」
「ここまで来て?」
「だ、だってわたしたちにはまだやるべきことがいっぱいあるし。ほら、魔王討伐とか!」
確かに魔王討伐は勇者にとっては最大の目標だ。
ただ俺から言わせれば「だった」だが。
「俺、もう勇者じゃないし。ただの鍛冶職人だし」
「うっ……そう言えばそうだった……」
やらかしたという顔を向けてくるリィナ。
だが流石にここまで拒絶されて強行するほど俺も悪人じゃない。
ユーグたちの目を欺くためとはいえ、彼女の意思とか関係なく強引に連れ込んでしまったのは事実だ。
意地悪はこの辺にしないと。
後でどんな見返りを受けるか分からないからな……
「まぁでも帰れなくなるのは俺も嫌だな。出ようか」
「う、うんっ! それがいい。それが一番!」
さっきの威勢はどこに行ったのかとツッコミたくなるほど、首をブンブン縦に振るリィナ。
もうプライドとかどうでもいいと言わんばかりの肯定だった。
本音を言えばもっと先に踏み込んでみたいという願望はあるが、ここまで拒絶されたら仕方ない。
もっとこの先のリィナを見てみたいという好奇心を抑えつつ、俺はキャストさんにその故を伝えようと口を開きかけたその時、事件は起こった。
「あ、そう言えばもう外の世界の方で説明を受けたかと思いますが、この部屋からの先の途中退出は不可になっておりますので、今一度ご承知おきくださいますようお願いいたします」
「「えっ……??」」
最後に発せられたキャストさんのまさかの一言に声が出てしまう。
だが俺の隣からはこの世の終わりのような意気消沈とした暗い掠れ声が聞こえてきたのだった。




