191.威圧の眼
というわけでやってきてしまった。
王都最大のテーマパーク、またの名をグレズリー・ワールド。
王城の裏側に並行して並ぶ古城が象徴のエンターテインメント施設で、世界中に10つの拠点を持ち、その名を聞けば大体は知っていると言わしめるほどの人気テーマパークだ。
ちなみに名前の由来は創設者の実名から取ったそうで、その経緯がパークの入り口にある噴水付きの巨大石碑に書いてあった。
で、俺たち二人はというと……
「案の定、人が多いな……」
「仕方ない。最近パーク内で新しいイベントが始まったから」
パークに入場するべく、入場ゲートの列に並んでいた。
入場券は既にガロさんから入手済みだったので、入場券窓口に並ぶ必要はないのだが、流石は人気観光地。
入場ゲートだけでも長蛇の列になっていた。
もちろん、入場券窓口の方も圧巻の列が出来ている。
普通に来たら、どれだけ待たされるか分かったもんじゃない……というレベルで人の圧が凄い。
「でも本当に良かったのか? 急に誘っちゃって」
「構わない。そもそも行きたいと言ったのはわたしだから。それに今日の分の仕事は粗方終わってるから、実質業務終了、不安点はない」
「流石だな……」
この歳で軍の仕事をこなす彼女には感服である。
「でもなんでシオンがチケットを?」
「し、知り合いに貰ったんだ。行かなくなったからあげるって言われて」
本当のことなど言えるわけがないので適当に誤魔化しておくことに。
リィナは「そうなんだ」と言いながらも、パークのマップを凝視していた。
事の発端はご存じの通り、ガロさんがパークのチケットを渡してきたところから始まる。
誘ったのはもちろん俺だ。
最初は断れるのを覚悟で言ってみたものの、難なくOKが出た。
というかむしろノリノリの返事が返ってきたくらい。
俺的にはそこで断ってくれていたら……と最初は思う節はあったが、眼を輝かせながら言ってくるリィナを見ていたらいつの間にかそんな考えはなくなっていた。
唯一不安な点を挙げるとすれば……
(うわっ、バリバリこっち見てるし……)
俺たちが並ぶ列のすぐ右斜め後方の列に威圧を含んだ視線が。
犯人は言わずもがなガロさんご本人である。
花柄が施されたTシャツに白無地のハープパンツ、茶色のウエスタンハットに黒のサングラスと中々に奇抜なコンビネーションのファッションスタイルをバッチリと決め、例の如く熱い視線を送ってくるのを察知したのですぐに気づくことができた。
(あの人、端から隠れる気ないでしょ……)
でも店での反応を見る限り、気づかれていないと思っていたらしいので、今回も同様にそう思っているのかもしれない。
彼にとっては恐らく最大限の変装なのだろうけど……
(むしろ目立ってるんだよなぁ……)
お客の中でもひと際異彩を放っているし。
周りの人も気になっているのか、ずっとガロさんの方を見ていた。
というか本当にリィナは気づいていないのか?
さっきの店でのこともそうだけど、リィナは全くガロさんの監視に気付いていない様子だった。
今回も特にそんな様子はない。
もしかしたらリィナだけには都合よく気づかれない監視作法でも使っているというのか?
(……なんて。んなバカなことあるわけないよな)
広がる妄想を抑える。
と、同時にリィナの高い声が耳に入ってきた。
「シオン? どうかした?」
ずっと話をせず無言だったからか、リィナが怪訝そうに俺の顔を覗いてくる。
俺は「何でもない」と一言リィナに言う。
彼女は不思議そうに首を傾げつつも、パークマップを広げて俺に見せてきた。
「ねぇねぇ、シオン。一応こういうルートで回ろうと思うけど、どうかな?」
「どれどれ……」
広げたマップに目を向けると、そこには赤いペンで巡回ルートが事細かく書かれていた。
しかもその場所で何をするかまで全てが、簡単な文章で説明されていた。
「す、すごいな……この短時間でここまでのプランを練り上げるなんて」
「グレズリー・ワールドは昔よく行っていたから。最近は仕事が忙しくて来れてなかったけど」
「でもこんなに回れるのか? このパーク、結構な広さがあるって聞いたことあるけど……」
「回れる。いや、絶対に回る! 最低イベントが行われているエリアは全部!」
「お、おぅ……」
いきなりギアの入るリィナさん。
その気合いっぷりはさっきのマップを見れば分かる。
彼女は本気でさっきのルートを網羅するつもりらしい。
「とりあえず入場したらこの場所に行こ。ここは人がとにかく集まるから早めに行っておきたい」
「分かった。任せるよ……」
なんか色々と大変な一日になりそうだな、今日は……
自分から蒔いた種とはいえ、前途多難に思う俺であった。