190.ステップ2
「はぁぁぁ~美味しかった! やっぱりマスターの料理は侮れない」
「だな」
食事を終えた俺たちはゆったりタイムに入っていた。
料理の味は問答無用の美味しさだった。
いつもはあまり表情を露わにさせないリィナもこの時ばかりは頬を緩ませていた。
俺自身もいつの間にか料理の虜になっていた。
さっきまで抱いていた悩みすらも吹き飛ばしてしまうほどに。
でも……
(さっきからめっちゃ見てるんだよなぁ……)
それとは別に、新たな悩みが。
食事中もちょくちょく感じてはいたが、ガロさんがすっごい目で俺たちを見ているのだ。
まるで我が子を過剰なまでに見守る母親の如く、熱い視線が。
最もそれがずっと続いているわけじゃなく、時々厨房に戻っては出てきてを繰り返していた。
本人からすればバレないよう、配慮しているつもりなのだろうが……
「なんか居づらい……」
「ん、どうしたのシオン?」
「いや、なんか視線を感じるなーって……」
「視線……?」
リィナは首を傾げた。
俺は不審に思った。
あれだけの熱い視線だ。
周りのことに敏感なリィナが気づかないわけがない。
そう思い、再びさっきの場所に目をやるとマスターの姿はそこにはなかった。
奥の厨房の方でガシャンガシャンと何かをする音が聞こえてくる。
(さては、察したな……)
食事中もちょくちょく視線を感じていたが、当のリィナは食事に夢中で気付いてなかったからの行動だったのだろう。
(流石はリィナの仮親……)
判断が卓越している。
俺でなきゃ見逃していたところだ。
あ、仮親というのは俺が勝手にそう思っているだけだ。
実際、彼女の親よりもリィナこと色々と知ってそうだし……
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」
俺は席を外し、テーブルを離れた。
そして真っ先に行ったのはトイレ……ではなく、厨房の方だった。
しかもその場所はちょうどテーブルから死角になっており、こちらの姿は見えない。
話すには絶好の場所だ。
「お、シオンくん。トイレかい?」
その場所に行くと案の定厨房からその人物が出てきた。
わざとらしい演技を交えながら。
「ガロさん、すっごい見てましたね。アホみたいに視線を感じましたよ」
「あ、やっぱりバレてた?」
「バレバレです」
そういうとガロさんはあれぇ~と言いながら後頭部に手を回すと、
「おっかしいな~あのやり方でリィナちゃんにはバレないんだけどなぁ……」
「ということは普段からやっているんですね」
常習犯だった。
でもあの動きは今日が初めてと言う感じではなかったので頷ける。
引き際も完璧だったし。
「まぁでもリィナちゃんにバレてないならいいや! んで、どうよ? リィナちゃんとはいい感じ?」
「いいも何もいつもと変わらずって感じでしたよ」
ただ単に普通に食事をしただけ。
これ以外に言えることはなかった。
実際、本当のことだ。
ウソは言っていない。
「変わらずかぁ……でも最初はそんなもんだろう。まだまだ作戦は始まったばかりだからな」
ガロさんはうんうんと頷く。
「あの……本当にやるんですか? この作戦……」
納得する傍ら、俺の方は不安しかなかった。
色々な意味で。
「もちろん! まだ今の第一ステップ……いや、まだその前と言っても過言ではないからな」
「マジすか……」
どうやら俺はもう引けないところまで来てしまったらしい。
あの時に断れなかったのが俺の失態か。
「ん、もしかして不安なのか?」
「いえ、大丈夫です」
別の意味で不安です……なんて言えない。
ガロさんはふざけているわけでもからかっているわけでもなく、至って真剣なのだから。
というかこの様子じゃ、引けそうもないな……
今は大人しく話を聞くことにしよう。
余計な軋轢を生まないためにも……
「んじゃ、早速次のステップに移ろうと思うんだが……その前に」
「……?」
ガロさんはポケットからゴソゴソと何かを取り出すと、俺に差し出してくる。
「こ、これは……」
ポケットから出てきたのは二枚組のチケット。
その表表紙には王都内にあるテーマパークの名がデカデカと刻まれていた。