185.ついてきて
「はぁ……どうすっかなぁ……」
俺は勇者軍の訓練場の脇にあるベンチで一人、頭を悩ませていた。
「シオン」
「おう、リィナか」
スタスタと歩み寄ってきたのは訓練服を着たリィナだった。
額に光る汗と少し顔が赤いのを見ると、ちょうど鍛錬を終えたところか。
「鍛錬終わりか?」
「うん。シオンはここで何してたの? おサボり?」
「ま、まぁ……そんなところかな」
「じゃあ、後でリベルカさんに言っておくね」
「そ、それだけは勘弁してください!」
サボりと言っても育成組にはしっかりとメニューを渡してあるし、ここからでも鍛錬の様子を見ることはできる。
まぁ本来は指導者として俺も鍛錬の中に混じるのがベストなんだが……
「悩みか何かあるの?」
「まぁな……」
「お仕事関係?」
「うん、そんなとこ」
そう、俺には悩みがあった。
悩みで仕事関係といえばいわずもがな例の依頼に関すること。
正剣化する作業に詰まっていたのだ。
ちなみにこうして育成組から距離を置いているのは皆のモチベーションを下げないため。
皆が真剣にやっているなかで一人だけ悩みで沈んでいるところを見せるわけにはいかない。
どちらにせよ、良くないことに変わりはないんだが……
「なにで悩んでいるの?」
「実は……」
俺は極力リィナにも分かるように説明した。
「なるほど。要するに強い剣を作るための過程で悩んでいると」
「うん。しかも取引相手が結構な大物でさ。下手なモノは作れないから余計に悩んじゃって……」
前にも言った通り、正剣化の工程は剣を作る上でも最もといっても過言ではないほど大切な作業だ。
一応魔剣として作るのは決まっているのだが、それ以外に具体的な要素が必要となる。
普通の魔剣では終わらない強い要素が。
それに抽象的な案では中途半端なものが出来てしまう。
だから具体的にどうするかを決めないと先へは進めないのだ。
「大変だね」
「それがやりがいでもあったりするんだけどな。でも今回は正直、悩み倒されてる」
プレッシャーが重くのしかかるほど、詰まった時の圧迫感はすごいものだ。
過去にここまで深く悩んだことはなかったから、余計にそう感じる。
「はぁ……」
今日何度目か分からないため息。
前にリーフに溜息をつくと幸せが逃げちゃうよって言われたから、極力しないようにしていたけど。
(今回は無理そうだ……)
顔に手を当て、悩むオレ。
そんな中、俺は横から熱い視線を感じた。
「じーーーーーーーーっ」
「り、リィナ? さっきから俺のことをじっと見てどうしたんだ?」
横目で見ると瞬きもせずに俺の事を見つめてくる。
目を合わせると何だか恥ずかしくなってきちゃいそうだったので、あえて反らしたが……落ち着かない。
「リィナ、何かあるなら――」
「よし、決めた!」
「えっ?」
リィナの中でナニカが決まった様子。
するとその直後、リィナは急に俺の手を引っ張ってくる。
「シオン、ついてきて」
「え、ちょっと……リィナ!?」
俺は彼女の同行に流されるがままに。
目的地も分からない場所へと連れていかれるのだった。