184.お姉さまは女王様
「お姉さんがクラリス女王って……本当なの?」
「本当ですよ。こう見えてもわたしは王族家系の娘なので」
今月で一番驚いた出来事だった。
女王の従妹……しかもその子は現役の勇者ときた。
(なんか、とんでもない子と出会っちゃったな……)
なんかこの子に詰められた要素が色々と混沌としすぎてヤバい。
王族の家系で二重人格で勇者で王女の従妹で……
情報過多にもほどがあるだろ……
「まぁ、今は”元”ですけどね……」
「元? 今は違うのか?」
「はい。先ほども申した通り、わたしはこの人格のせいで世間の目を引いたことで、親にも疎まれるようになりました。そのせいで家からは追い出されてしまって……今は親戚にあたる方の養子として何とか生きながらえています。イングラムという姓もその時に与えられました」
「そうだったのか……」
俺も悲惨な過去を持っていることに自信はあったが、この子は本当に辛い道を歩んできたんだな。
自分は悪くないのにちょっと特殊なモノを持っているだけで、周りから疎まれる。
実に胸糞悪い。
「ごめん、辛い過去を思い出させてしまって……」
「気にしないでください。それもわたしの中では人生を創るピースの一つなので」
「強いんだな」
「そんなことないですよ。当時は毎日のように部屋に籠って泣いてましたから」
笑顔で彼女はそう言うが、今でも傷は完全に癒えてはいないだろう。
悪いことなんて、何にもしていないのにあたかも悪者のようにして扱われる辛さは俺にもよく分かる。
今でもその時のことは心の奥底で傷跡として残っている。
もうそれは昔のこと……と割り切れればいいのだが、それができたら苦労はしない。
「なんか暗い話になってしまいましたね、すみません……」
「いや、大丈夫だ。逆にリラちゃんのことを知れて良かったよ」
「ありがとうございます。それで話は戻るんですけど……」
「あ、ああ……この剣が何でここにあるかって話だったっけ?」
「はい」
話は最初に戻る。
本来、契約者との間で交わされた内容は外部の人間に教えてはならないのだが、女王の身内ならいいだろうということで大雑把ではあるが事情を彼女に説明した。
「お、お姉さまから剣の制作依頼を受けたんですか!?」
「うん、俺も正直驚いたけどね。一度きりだけど、お会いしたこともあるし」
「あ、あの人前では滅多に素体を晒さないお姉さまが人と面会するだなんて……世界でも滅びるんでしょうか……」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟じゃないですよ! ああ見えてお姉さまは人と関わるのがすーーーっごく苦手な方なんですよ?」
「そ、そうなのか……?」
会った時はそんな風には見えなかったけど……
「これは何か裏がありそうですね。今度聞いてみることにしましょう」
「裏って……」
まぁ身内にしか分からないことがあるんだろう。
もしかしたら、俺の持つクラリス女王の印象とはかけ離れたような人なのかもしれない。
「ところで、ずっと気になっていたんだけどリラちゃんは勇者軍に寄るためにここまで来たんだよね?」
「あ、はい。そうですけど――あっ……」
リラちゃんから発せられたその”あ”は何かを思い出した時に出るものだった。
すると途端にリラちゃんの表情が焦りへと変わっていき、、
「そ、そういえば今日までに報告書を提出しないといけないんでした! す、すみませんシオンさん、報告書を出し終わったらすぐに戻ってきますので、ひとまず本部の方へ行ってもよろしいですか?」
「う、うん。全然構わない……というかむしろ早く行った方が」
「ありがとうございます! では、すぐに出してきますのでっ!」
リラちゃんはそれだけ告げると一目散に走っていった。
「なんだか色々と忙しない子だな……」
ちなみにその後、リラちゃんはすぐに戻ってきた。
約束通り、大掃除もこなしてくれて彼女の償いは幕を下ろした。




