182.大掃除
「こ、これは……中々酷いですね……」
「凄いだろ?」
「は、はい。正直、驚きました……」
場所は工房内にある大倉庫。
普段はゴミ置き場として使われている倉庫なのだが、ここへ彼女を連れてきたのは……
「まぁこれを見てもう察しているかもしれないけど、ここの掃除を手伝ってもらいたいんだ」
そう、俺が彼女に求めた償いは大掃除の手伝いだった。
ここには今まで工房内で出た大量の鉄くずや色々な経緯で生まれたガラクタが眠っているまさに工房版貝塚みたいな場所。
一応何度か掃除はしているのだが、日々の作業でゴミは増える一方で。
最近では工房もそこそこの知名度を得てきたからか、仕事量に比例してゴミの山は遂に大倉庫の天を突いてしまうまでになっていた。
流石にこれ以上、増えると倉庫から溢れかねない。
「と、いうことでみんなでここの掃除をしようってわけだ」
「なるほど、事情は分かりました。でも、これだけでいいんですか?」
「もちろん! ここの掃除をしてくれるだけでも俺たちとしては大助かりだし。工房のみんなも喜ぶから」
それに、いずれはやらないといけないこと。
正直な話、掃除とかで普段の業務を阻害されたくはない。
特に今のように仕事量が増えている時期はそっちに集中したいというのが俺たち職人の本音なのだ。
「そ、そういうことでしたら。喜んで掃除をさせていただきます。ですが一つだけお願いが……」
「なに?」
「今回はあくまで私の失態で招いたことです。なので今回の掃除、私一人でやらせてもらえませんか?」
「えっ、この量だよ? 流石に一人じゃ……」
処理できないだろう。
ぶっちゃけ俺とグランが本気になってやっても一日で終わるかどうか……
でも彼女は真剣だった。
「お願いします。自分の犯した罪を身を持って感じ、反省するために。どうかこの場は私に任せてもらえないでしょうか?」
「う、う~ん……」
何となくそう言うかなと思ってはいたけど、まさか言ってくるとは……
でも一人で捌くにしては流石にオーバーな量だ。
それにリラちゃんはまだ年端もいかない女の子。
力的にも体力的な面でも一人で任せてしまうのは何と言うか、罪悪感がある。
(でもこの様子じゃ絶対にひかないよなぁ……)
だって眼が本気だし。
まぁでも確かにこれは彼女が罪を償いたいと言って提案したことだ。
もし自分が逆の立場だったら同じことを言っていただろう。
良心で言っていたつもりだったけど野暮な行為だったみたいだ。
「分かった。んじゃここの掃除をお願いできるかな?」
「はい! お任せください!」
「あ、でも無理だけはしないでね。中には重たいものもあるだろうから、何かあれば遠慮なく呼んで。俺はここからすぐ近くの作業台にいるから」
少し心配しつつも。
俺はその場に彼女だけを置いて、立ち去った。