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18.漆黒の聖威剣


 勇者軍が魔獣討伐に動こうとしている中、俺は工房内にある物置部屋にいた。

 

「うわぁ……相変わらず汚いところだな」


 その汚さは尋常なく、色々なものが散らかりすぎていて足場がないほど。

 その上歩くたびに埃や砂が舞い、もう何年も掃除していないことがすぐに分かった。


「えーっと……確か親方に頼まれてたものはこの辺に」


 ガサガサと散らかる工具などをどかして、お目当てのブツを探す。


 すると、


「ん、何だあれ?」


 視界に入ったのは物置部屋の中でひときわ目立つ細長い箱。

 薄青い輝きを放つその箱は薄暗い物置部屋の中ではかなり目立っていた。


(なんだろう、これ)


 興味本位で蓋に手をかけてみる。


 ……と、次の瞬間。


「……うっっ! 何だ……胸が……!」


 突然胸元が熱くなり、ギュッと締め付けられるような圧迫感を得る。

 

 俺はすぐにその箱の蓋から手を離した。


「はぁ……はぁ……はぁ……何だったんだ今のは……」

 

 痛みとかではない。

 ただ胸元から何かが湧き上がって来るかのような感覚だった。


 でもなぜだろう。


 この感覚……懐かしい感じがする。


「もう一度……」


 俺は再び蓋に手をかける。

 そして一気に蓋を開けると、


「うっ、なんだこの光は!」


 激しい閃光が俺の目を晦ます。

 だが蓋は無事に開けられたようで、目を細めながらも中身を覗く。


 ……と、


「こ、これって……」


 光が徐々に収まり、目が慣れてくる。

 視界が鮮明になり、中に入っていたのは漆黒の剣だった。


 しかもただの剣じゃない。


 これは……


「聖威剣……か?」


 形状からして間違いない。

 しかもこの聖威剣、俺が勇者時代に使っていたものとそっくりだった。


「何でこんなところに聖威剣が……」


 ちなみに俺が勇者時代に使っていた聖威剣は3年前に親方に頼んで廃棄してもらった。

 なので似ていると言っても俺の聖威剣がここにあるはずがないのである。


「でも一体誰の……」


 俺は気になり、聖威剣に触れる。

 一通り見渡し、確認する。


「少々傷が目立つが刃こぼれはしていない、か……」


 だが埃が凄かったことや所々錆びついている所を見るとここに置かれてだいぶ時間が経っているということが分かった。


 見た感じ旧式のようだが、アンプルもしっかりと組みこめられていた。


「一応親方に聞いてみるか」


 見た目だけでは流石に誰のものか分からない。

 ここにある以上、親方に聞くのが一番だろう。


「とりあえず、今は親方に頼まれていた物を……」


 と、一旦剣を箱の中へと戻そうとした時だ。

 

『……待て、シオンよ』


 ……ん?


 心の中に語り掛けてくるかのように何者かの声が聞こえてくる。

 

「だ、誰だ?」


 他に誰かいるのかと辺りを見渡すが、周りに人の気配はない。

 

 だけど声だけは絶え間なく聞こえてくる。


『シオンよ。我の話を聞け』


「話を聞けって……お前は誰なんだ? どこから話をかけている?」


 物置部屋の中で俺の声のみが響き渡る。

 すると謎の声は、


『お前がさっき手に持っていた物からだ」


 ……と、答えた。


(手に持っていたもの……だと?)


 過去の記憶を辿り、心当たりがないか考えていると、


「ま、まさか……!」


 そう思い、俺は先ほどの薄青い光を帯びていた細長い箱を取り出す。

 蓋を開け、再びさっきの聖威剣を取り出そうとした瞬間だった。


 中から勢いよく何かが飛び出し、俺の目の前で浮遊するものが。


「お、お前なのか……? 俺の心に語り掛けてくるのは」


 浮遊する漆黒の聖威剣は剣先を俺の方へ向け、またすぐに戻した。

 

 頷いた……のか?

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