179.フラグ回収
『シオン、誰かがこっちに来る! 早く隠れるんだ!』
グランの唐突な叫びによって俺は速攻かけ布団で全身を覆う。
そのすぐ直後、扉がバタンと勢いよく開いた。
「しーちゃん! 体調を崩したって聞いたけど、大丈夫!?」
扉の勢いと同じくらい焦りが混じった声が室内に響き渡る。
この声は……リーフか?
『おう、リーフレットか。どうしたんだ、そんなに慌てて』
「えっ、貴方は……どちらさまで?」
少しどもっているが、会話の内容は聞こえてくる。
リーフの反応を聞く限り、相手が誰だが分かっていないみたい。
そういや、今のグランは人間の姿だったな。
グランが人の姿になれるのは俺しか知らないから、こうなるのも当然だ。
『グランだ。今はこんな姿だがな……』
「グランって……しーちゃんの聖威剣の?」
『そうだ』
「ほ、本当に!? 本当にあのグランなの!?」
『本当だ。ほら』
「あっ、本当だ! そんなこともできるんだ!」
『ま、まぁな……』
やり取りから推測するに剣に戻って証拠を見せたんだろう。
リーフも納得してくれたみたいだ。
「あ、そう言えばしーちゃんは!? 体調を悪くしたって聞いて心配して駆け付けたんだけど……」
『あ、ああ……シオンなら大丈夫だ。今は体調も戻りつつあってぐっすりと寝ている』
「そ、そうなんだ。良かったぁ……」
ホッとするリーフの声が聞こえてくる。
あの慌てようからして本当に心配してくれていたんだろう。
何だか申し訳なくなってくる。
「わたしに何かできることってある? 今日はもうお仕事ないから、何かあれば言ってほしいな」
『そうだな……あ、そう言えばシオンはまだ食事を取っていなかったな』
「あ、それならわたしが何か作ってくるよ。一旦、家に帰るから少し時間がかかっちゃうかもしれないけど……」
『すまない。では頼めるか?』
「もちろん! ちょっと待ってて!」
スタスタと去っていく足音を聞こえる。
どうやら最悪の事態は回避できたようだ。
『もういいぞシオン。彼女はもう行った』
「ふぅ……危なかった」
掛け布団から顔を出し、酸素を補給。
こもっていたことによる暑さと心拍数の増加によって額から汗が滴っていた。
「悪い、グラン。助かった」
『ああ。それよりも今は一刻も早く娘を引き離さなくては。彼女が戻ってくる前に』
「だな。とにかくさっきの続きを――」
『おい、シオン。さっきお前のガールフレンドがここに……って何しているんだ!?」
『「……あ」』
思わず出てしまった気の抜けた声。
完全に気配消されていたから、俺もグランも気づかなかった。
俺たちは茫然と親方を見つめながら、ただこう思った。
……やっちまったと。