178.危険察知
俺は今、何をしているんだろう。
そんな思考が自身の脳内を駆け巡っていた。
何せ今俺がしていることは人としてのモラルを疑われる行為。
あえて内容までは口にしないけど、控えめにいって最低最悪の所業だ。
でもやるしかないのだ。
自由を手にするために。
「ど、どうだグラン? 何か変化はあったか?」
『まだ特に変化ない。続けてくれ』
「頼むからしっかりと見張っておいてくれよ。こんなところを誰かに見られでもしたら――」
『分かっている。だが安心しろ。親方含め他の職人は仕事に追われている。今朝とんでもない量の発注届が送られてきたらしいからな。ここに来る暇もないだろう』
「な、ならいいんだけど……」
今になって俺が積み重ねてきた成果が味方をしてくれた。
とにかく今俺がすべきことは一刻も早く彼女から脱する事だ。
そのことだけに精力を傾ければいい。
「少し集中するわ。グラン、もしリラちゃんが眼を覚ましたら言ってくれよ?」
「分かった」
誰かに見られるのも最悪だが、一番忘れてはいけないのはリラちゃんが眼を覚ました時の場合だ。
恐らくリラちゃんに昨日の記憶はないだろうから、目の前に他の誰かが横たわっていたら混乱を招くのは必至事項。
その上、直接的ではないとはいえ自分の胸を触られているなんて知ったら……その先はまぁ、カオスなことになるだろう。
そのこともしっかりと頭に入れておかないといけない。
板挟み状態で平和に事を解決するには協力が必須なのだ。
「ふぅ……よし」
背中に全神経を集中。
そして最初は徐々に緩やかに動きつつも、次第に激しくしていく。
とはいえ、ホールド状態だから極度に激しい上下運動はできないが。
胸にだけ振動が伝わればそれで問題はない。
小刻みに動いてちょうどいい位置にあったから良かった。
俺は背中に魂を込める。
もちろん俺は後ろを向いているから、どうなっているかは分からない。
しかし……
『ん、シオン! 娘の表情が変わった、どうやら効果ありみたいだ』
「マジか! じゃあこれを続ければ……」
その変化に底から嬉しさが込み上げてくる。
それじゃら不思議と身体は弾むように動くようになり、謎の上下運動を続ける。
「ん、んっ……」
行為を続けている中、背後から小さく漏れる声。
グランの言っていることは間違ってはいなかった。
……これなら、行ける!
そう思い、勢いがつき始めた……その時だった。
『隠れろ、シオン! 誰かがこっちに来る!』
勢いづいた時にストッパーとなったグランの叫び。
その直後、コツコツという音が部屋の外から聞こえてきた。




