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172.優しい一面


「ここだな……」


 工房内に3部屋ほどある寝室。

 親方が言うにはリラちゃんは奥から二番目の部屋にいるらしい。


 ここは残業でどうしても家に帰れない職人の為に用意した部屋らしいけど、俺は一度も使ったことがない。


 というか、そもそも親方が残業にキツイからな。

 残業をしたくてもさせてくれないことが多い。


 在り難い話だが、その分親方が残業をしたりしてくれているから、罪悪感がすごいある。

 一弟子としては親方も休める時はしっかりと休んでほしい。


 最近は例の公王様からの依頼もあって、工房に住み込みになっているらしいし。


 今まで何度か言ってはいるけど、「俺なら大丈夫だ」としか言わないし……

 まぁでも、それで毎日同じかそれ以上の仕事を高水準のクオリティでこなせるんだから本当に凄いと思う。


 もう熟練の職人とかそんなレベルじゃない。

 

 俺からすれば、あの人は別格の職人だ。

 

「俺もいつかは……」


 他人に別格と言われるほどの職人になりたいものだ。

 

 どれくらいかかるかは知らないけど。


 とりあえず扉をノックし、中に誰かいるか確認――


「……って、誰もいるわけないか。今はみんな仕事中だし」


 ノックしようとした手を引き、ドアノブに手をかける。

 鍵は……かかっていないみたいだ。

 

(リラちゃんは多分まだ寝ているだろうからそっと入った方が良さそうだな)


 俺は極力音を立てぬようそっと扉を開け、中に入る――と。


『ん、シオンではないか』


「ぐ、グラン!? い、いたのか!?」


 部屋に入ると例のイケメングランの姿が。

 ベッドの傍に椅子を置き、リラちゃんを見守るようにして座っていた。


 なんだ……いるなら言ってくれよ……


 と、思ったがそもそもノックしてない俺が言える立場じゃないな。


『体調は大丈夫なのか?』


「大丈夫……てか、そもそも俺体調悪くないんだけど」


『む、そうなのか? 周りの者はみんな、お前を体調不良だと思っているみたいだぞ?』


「どういうこっちゃ……」


 一体どういう理由で俺がそう見えたのか……

 

 実に謎である。


「リラちゃんの様子は?」


『問題ない。このまま行けばあと一時間もすれば目を覚ますだろう』


「そっか」


 順調みたいで何よりだ。

 でも……


『うん? どうしたシオン?』


 何か疑問に思う俺を察したのか、俺よりも先にグランが問いかけてきた。


「いや……なんで人間の姿になっているのかなと」


 別に剣の姿でもいいだろうに……と思ったが、グランには明確な理由があった。


『目覚めた時に誰かいた方がいいだろう? ここは彼女の知らない場所だ』


「ああ、そういうことか」


 確かに目覚めていきなり知らない部屋のベッドの上で寝ていたら、不安になるよな。

 グランはそういう細かなところをしっかりと考えて上でその格好になっていたわけか……


 意外……だな。


「ふっ……」


『ん、なんだシオン。何かおかしいか?』


「い、いや……グランにもそういう優しい一面があるんだなって」


『……そう、か?』


「うん。俺の中で、グランは堅物で厳格なイメージがあったからさ。小守なんて想像もできなかった」


 言い方をよくすれば超絶クールなんだよな。

 いつ如何なる時も冷静というか。


 その上、特徴的なハスキーボイスで喋るからさらにそのイメージが際立っている。


 悪い奴じゃないというのは周知の事実だが、ここまで面倒見がいいとは思わなかった。


『そうなのか。別にその点は意識していなかったが、一つだけ言えることがある』


「言えること?」


『お前による影響が大きいということだ。我はお前の剣主になってからずっと傍で見てきた。そこで色々なことを学んだのだ。お前の行動や言動、人間との関わり方とかな』


 グランは続ける。


『確かにお前の言う通り、最初は人間になど全く興味がなかった。だがお前と出会って我は変わったのだ。お前の持つ純粋な優しさに感化されてな。今でも自分の変わり様には驚いている』


「そう…………か」


 優しい……か。


 そう言われたのは久しぶりだ。

 

 自分ではあまり自覚はないけど、グランにとって良い影響を与えられたのなら良かった。


「優しい……優しいか。ふふ……」


『シオン? なにニヤニヤしているんだ?』


「べ、別に!? ニヤニヤなんかしてないけど!?」


『そ、そうか……』


 やっぱり人から褒められるっていい気分だな。

 理由で何であれ、凄く嬉しいものだ。


「……なぁグラン」


『どうした?』


「しばらく、ここにいてもいいか?」


『ああ……もちろんだ』


 表情は見えなかったが、少し笑ったのだろうか。


 いつもよりやんわりとした声で、そう言ってきた。

 今までグランの口から聞いたことのない優しい声だった。


「んじゃ、失礼するよ」


 俺はその隣に椅子を持ってくると、ちょこんと座る。

 

 そして。

 俺はグランと共にリラちゃんが目を覚ますまで傍にいることにした。

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