171.勘違いされてる?
「今、戻りました」
「おう、シオン。例の剣の調子はどう――って、誰なんだその子は!?」
「あ、いや……これには少し深い理由が――」
「あっ、シオンが女連れて帰ってきたぞっ!」
「女……ってかまだ子供じゃないか!」
「おいおいここは工房だぞ、シオン……と言いたいところだが、中々可愛い娘じゃないか!」
「この時間にお持ち帰りとかやりおるのぉ~~~グヘヘへへへ」
予想以上の反応が工房内に湧き上がる。
なんか犯罪臭をほのかに匂わせるような反応も混じっていたが、あえて触れないようにしておこう。
いや、今はそんなことを考えているところじゃないか。
とにかくこの盛り上がりを鎮めなくては――
『安心しろ。シオンはただ人助けをしただけだ。この娘が道端で倒れていたんでな』
と、騒ぎの中、グランからのフォローが。
ナイスタイミングだ、グラン!
「本当なのかシオン?」
「本当です。森から帰ってくる途中に倒れているのを発見しまして。流石に置いていくわけにも行かなかったので仕方なくこうすることに……」
細かな経緯を語れば長くなるから、余計なことは言わないでおく。
また変に誤解を生むと厄介だからな……さっきの反応を見る限り。
「なーんだ、お持ち帰りじゃないのか」
「まぁあの純粋なシオンがそんな大胆なことするわけないよなぁ~」
「さーて、仕事仕事~」
……何だろう、この複雑な気持ちは。
とりあえず誤解が解けたのはいいけど、男としての何かが傷ついた気がする。
『どうだ? 中々良いフォローだっただろ?』
「ああ、うん。ありがとうな、グラン」
『む、何か反応が薄いな。どうかしたのか?』
「べ、別にィ……」
俺だってその気になれば女の一人や二人……いや、無理だな。
今までも何度かあんなことやそんなことのお誘いを受けたことはあったけど……
見事にチキンハートを発揮しました。
いや、だっていきなりそんなお誘い受けても困るだろ?
普通はワンクッション置くと思うんだが……
(いや、そもそも関わっていた奴が普通じゃなかったわ)
俺の友人であり、親友であり、戦友でもある某Yさん曰く女遊びは娯楽であり、文化だそう。
娯楽はまだ百歩譲って理解はできるが、文化ってなんだ文化って。
正直、よく分からない世界だ。
まぁそれを糧にしている人もいるわけだから、否定はできないけど。
それに羨ましいかと言われれば、少しくらいは……
「いや、ないな!」
『ん、何がだ』
「そんなハレンチなこと……全然羨ましくなんかないんだからなっ!」
『いや、だから何が!?』
ツッコミが光るグランの傍らで親方がじっと俺を見ながら、
「おい、グランよ。シオンはどうしてしまったんだ?」
『分からぬ。恐らく疲れが溜まっているんだろう。今日は休ませた方が良さそうだ』
俺が脳内で自分同士による熾烈な討論を繰り広げている中、互いに頷き合う親方とグラン。
そして俺の意識が完全に現実世界へと戻ってきた時には――
「あ、あれ? リラちゃんは? グランもいないし……」
考え事をしている最中、いつの間にか手元から消えているリラちゃん。
さっきまで隣にいたはずのグランもおらず、工房の入り口で自分だけが突っ立っている状況だった。
すると。
「あ、シオン。ようやく戻ってきたか」
「お、親方。戻ってきたとはどういう意味で?」
「い、いや何でもない。それよりも今日はもう帰って身体を休ませろ」
「えぇっ!? どうしてです!? 俺ならまだバリバリに――」
「休めと言ったら休め! これはお願いじゃない、工房長としての命令だ」
「は、はい……」
いきなり休めだなんて、どういうことだろう……?
(まさか、俺なんか良くないことでもしちゃったのか!?)
何か色々考え事をしていたのは本当だが、それで――
「あっ、そうだ! 親方、リラちゃん……彼女はどこへ?」
「あの娘か? あの子なら従業員用の寝室で寝かせてる」
「そ、そうですか」
そうか。
もう、誰かが部屋に運んでくれたんだな。
……え、一体誰が?
「気になるのなら、顔を出していけ。奥から二番目の部屋だ、それと、明日に備えてしっかり休んでおけよ。色々と抱えて大変だとは思うが、これも一人前の職人になるための鍛錬だと思え。いいな?」
「は、はぁ……」
「それじゃ、俺は作業に戻るからな。お疲れさん」
「お、お疲れ様です……」
可笑しいなぁ。
何か勘違い? されているみたいなんだが……
う~ん……まぁ、いいか。
それよりも、とりあえず今はリラちゃんのところへ行こう。




