170.一難去ってまた一難
「そんな……ワタシが、負けた……?」
地面にペタン座りしてぼーっとするリラちゃん。
それから数分の間、一切微動だにせず、まるで魂でも抜けてしまったのかと思うほどになっていた。
「り、リラちゃん? 大丈夫?」
そっと話をかけてみるも反応はない。
だがそれから10秒後くらいにようやく彼女の口がモゴモゴと動き出した。
「な……ん……」
「え、なに?」
「なんで……なんで分かったのよぉぉぉぉぉ~~~ッ!!」
「え、えぇっ!?」
突然俺の腰に抱きつきながら、号泣してくる。
あまりにも負けたことが悔しかったのだろう。
しばらくの間、泣きまくって俺の傍から離れなかった。
「ぐすん……っ」
「落ち着いた?」
「うん。ごめん、取り乱して」
近くの木陰に移動して休憩することに。
「飲むか?」
「うん」
俺は水袋を渡す。
運動後の水分補給は大切だからな。
「はぁ……情けない」
目元を真っ赤にし、水を飲むなり蹲るリラちゃん。
語調も戦っている時と比べたら少し大人しめに、女性っぽい感じに変わった。
それにしても……
(あれだけ強気だったのに一度崩れると、こうも脆いとは……)
何だか、年相応なところがあって安心した。
「……なにニヤニヤしてるのよ」
「いや、なんでもない」
威勢の割に結構メンタルが弱いんだなぁ~なんてこと言ったら、多分どつきまわされるだろうからな。
心の内に閉まっておくことにする。
「それよりもさっきのこと! なんでワタシの攻撃が読めたのよ!」
「え、ああ……あれは読めたというよりは誘導したんだよ」
「誘導?」
「そ」
そう、俺が逃げていたのは戦法だったのだ。
あえて逃げ回ることで、相手を焦らせ、自ら隙を作ってそれを逆手に取る。
だから動きを読んだわけじゃなくて、そうなるように仕向けた。
そして案の定、俺の戦法に引っかかったってわけだ。
この戦法を取ったのは彼女の弱点をついたもの。
俺は彼女と剣をぶつけ合う過程で感じたのだ。
彼女の純粋さを。
一切の邪念がなく、ただひたむきに強さを求める彼女の想いを。
それは攻撃にも表れていた。
一撃一撃が純粋なのだ。
だからこそ、単純に試してみたかったんだ。
真っ当な戦法以外で、彼女の才能がどこまで発揮されるのかを。
「そ、そんなのズルいわよ! 男なら正々堂々とやりなさいよ!」
「ご、ごめんごめん!」
俺の頭部をめがけてポカポカと叩いてくる。
まぁ確かに決闘にしては少々意地悪な勝ち方だったな。
理由は何であれ、反省すべき点だ。
「うぅ……今まで誰にも負けたことなかったのに」
「でもすごい剣技だったよ。負けたことないってのも納得だ」
「当然よ。だって、ワタシは……誰かに負けることなん……て……」
「お、おいっ! どうした!?」
何の前触れもなく、パタンと横に倒れたのでどうしたのかと思ったが。
ZZZ………………
『ふむ。どうやら活動限界が来たようだな』
「魔力切れってことか」
全く脅かせるなよ……
突然倒れたから何かあったのかと思ってしまった。
「んで、グラン。次に彼女が目を覚ますのは?」
『魔力の回復速度からして、大体5~7時間前後で目を覚ますだろう。お前との戦いでたいぶ力を使っていたみたいだからな』
「ま、マジで!? そんなに待つの!?」
その調子じゃ、目を覚ますのは夜ってことに……
(ま、まいったな……)
ここに5時間以上も放置するわけではいかないし。
かといって俺にもやることがあるから付き添ってあげるわけにもいかないしなぁ……
「……はぁ、仕方ない。工房に連れていこう。一応あそこには寝泊りできる部屋があるしな」
『その方が良さそうだな』
スヤスヤと寝息を立て、幸せに眠る彼女を俺は抱きかかえる。
一番楽なのでお姫様だっこで。
「親方に何か言われそうだな……」
『安心しろ。その時は俺がカバーしてやる』
「グラン……」
『……出来たらの話だがな』
「いや、それはしてくれ。頼むから」
心配だ。
まぁでも親方なら話せば分かってくれるだろう。
……たぶん。
そんな不安を抱きながらも。
俺は再び眠り姫と化した少女を抱きかかえ、工房へと戻ることになった。




