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17.緊急会議


 元勇者軍団長、ゴルド・エンブラントが牢獄から脱走したらしい。

 

 あの後、リーフレットは迎えに来た兵士と共に一旦本部へと帰っていった。

 そして俺は何事もなかったかのように仕事をしていた。


「お前さんは行かなくていいのか? そのゴルドって男に勇者軍を無理やり辞めさせられたんだろ?」


 無言で仕事に打ち込む中、脇から親方がそう言ってくる。

 俺はただ「はい」とだけしか返答しなかった。


「復讐をしようとは思わないのか?」


 復讐か。

 

 もちろん、頭の片隅にはあった。

 でもあれが大人の考え方なのかもしれないと子どもだった俺は次第にそう思い始めた。


 ゴルドに復讐しようにも俺の身体は貧弱だった。

 

 実力とかそういうことじゃない。

 俺はただ一介の勇者に過ぎなかったし、何より無知だった。


 対抗する手段がなかったのである。

 今思えば情けない限りだが。


 それに、俺はもう勇者を辞めた存在。 

 部外者が口を出す筋合いなどないのである。


 ♦


 一方、勇者軍では軍上層部の幹部役員やギルドマスターを初めとする重役が集められ、緊急の会議が開かれていた。


「団長、その話は本当で?」


「はい。大牢獄の管理者によると間違いないと」


「それともう一つ、良くない情報がある」


 ……と言って割って入ったのはギルドマスターのゼクスだった。

 白銀の長い髪を後ろに束ね、紫色の瞳を持つイケメンだ。

 

「ゼクスさん、良くない情報とは?」


 リベルカが内容を問うと、ゼクスは静かに口を開いた。


「実はその例の男が脱獄した直後、王都南西にあるベルガンの森から大量の魔力反応が検知されたのです。検知原因は恐らく召喚系魔獣。その数は推定3000ほどだという報告が先ほど調査を依頼していた冒険者よりあがっています」


「ま、魔獣が3000もだと!? それはどういうことだ!」


「しかも召喚系だと? 一体誰が……」


 勇者軍の幹部衆がざわつき始める。

 

「静粛に!」


 だがリベルカは至って冷静だった。

 すぐに一言放って騒ぎを鎮めると再びゼクスの方を向き、


「ゼクスさん。どうやら一刻の猶予もないという感じですね」


「はい。しかも奴らはそのまま真っ直ぐこちらに向かってきているようです」


「目的は王都……ということですか」


「恐らくは……一応ここに依頼を出した冒険者たちが纏めたリポートがあります」


 ゼクスはそういうと手元に持っていたバインダーから数枚の資料をテーブルの上に置く。


 そしてそれを真っ先に目を通す者が一人いた。

 勇者軍幹部衆の一人、クルーゼ・レイヴンだ。


 クルーゼは資料を一通りみるとスッと挙手し、


「団長、少し発言いいですかな?」


「クルーゼさん、どうぞ」


 リベルカが発言の許可を下すとクルーゼと呼ばれる男は喋りだす。


「まず一つ、ゼクスギルドマスターにお伺いしたい。それは本当に事実なのかということを」


「どういうことでしょうか?」


「私の見解から申し上げますと、そんな大量の魔獣を従える人間がいるとは思えないということです。それに魔獣の召喚にはいくつかの召喚制約があったはずです」


「そ、それは……」


 召喚制約。

 これは召喚士と呼ばれる人間が魔獣や聖獣を異世界、または異空間より召喚するのに必要な条件のこと。


 これをクルーゼという男はゼクスに指摘したのである。

 

「一般的な召喚士の場合、召喚できる魔獣は大体1~2体。錬度のある召喚士でも人間が体内に溜め込める魔力の限界値から考えても3体が限界でしょう。一人が召喚できる魔獣が2体と仮定しても3000を超える魔獣を召喚し、承服させるには最低でも1500人は必要である計算になります」


 クルーゼは続ける。


「ですがこの資料には召喚の儀が行われたという形跡やそのような人物を見たという報告が一切書かれていません。これは一体どういうことなのでしょう?」


 クルーゼは自らの持論を展開した上でゼクスに質問を投げかける。

 

 ゼクスはその質問にすぐさま反応した。


「確かに、クルーゼさんのおっしゃる通りです。我々もその件については疑問に思っていたのです」


「ということは、そちらの方でも解明はできていないと?」


 ゼクスは無言で頷き、返答する。

 

「資料がデマなんじゃないのか?」


「そうだ! ちゃんと信頼できる冒険者に依頼したんだろうな?」


 再び騒がしくなり、様々な意見が会議室内に飛び交う。

 そんな中で一人、聞こえないように舌打ちをしながらその光景を見つめる青年がいた。


 ユーグだ。


「ちっ、無能幹部どもめ。ぎゃーぎゃー騒いでも何も始まらんだろうが」


「ゆ、ユーグさん! しーっ、静かに! 聞こえちゃいますよ!」


「で、でもよ。こんな無駄な討論している暇があるならさっさと討伐に行った方がいいと思わないか? 軍勢はもうすぐそこまで来ているんだろ?」


「そ、それはそうだけど……」


 次第に会議室は混沌化し、誰が喋っているのかすら分からなくなってきた。

 

 だが次の瞬間だった。

 

「……静かになさい!」


「「「「「……ッ!」」」」」


 突然声を張り上げる者が幹部衆たちの注意を一点に集中させる。

 

「今は身内同士でいがみ合っている場合じゃありません。とにかく今私たちがすることは魔獣の軍勢を王都付近に近寄らせないことです」


 椅子から立ち上がりながらそう言うのは団長のリベルカだった。


 リベルカは周りの幹部衆たちをぐるっと一周見渡し、全員が自分の方へ向いているかを確認すると、口角を上げた。


「とりあえず、今は魔獣たちの討伐を最優先とします。総指揮はこの私、リベルカ=フォン・フィールドが執ります。この提案に異論があるものはすぐに挙手をしてください」


 リベルカの問いに周りの幹部衆たちは誰も手を上げない。

 沈黙が続き、先ほどまでの混沌は遥か彼方へと消え去る。


「……では、異論者はいないということでいいですね?」


 再びリベルカは周りを見渡し、是非を確認。

 そして誰も否定する素振りがないと分かると、リベルカはある指令を発令させるのだった。

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