169.戦いの天才
ガシンガシンと剣と剣がぶつかる音が森中に響き渡る。
そしてその音がするたびに辺り一面に暴風が吹き荒れる。
俺とリラちゃんの決闘は予想以上に熾烈を極めていた。
「強気なことを言うだけあってやるね、リラちゃん。すごい剣技だ」
「当然だ。ワタシは強くなるために剣を持ち、勇者になった。そして今も強さを求め続けている」
「なるほどね。その向上心がこの力を生んだわけか」
はっきり言よう。
この子は強い。
しかも”相当”とつく部類で。
今まで数多くの相手と戦ってきたけど、その中でもかなりの強さを持っている。
もちろん魔人とか、同じ勇者たちも含めてのこと。
少なくとも年相応の実力ではない。
「……はっっ!」
「くっ……!」
リラちゃんからの絶え間ない攻撃が俺に降りかかって来る。
しばらく様子を見たところ、彼女は高速移動を駆使した一撃離脱戦法が得意みたいだ。
要は相手の動向を見て、有効な一撃をくらわす必中タイプ。
だが場合によっては高速剣技で手数によるごり押し戦法を取ってくることもあり、巧みな状況判断に加え、臨機応変な戦闘スタイルが彼女の真の意味での戦い方らしい。
剣士としては理想的な戦い方だ。
その上、相手に隙を作らないように立ち回っている。
相手に攻撃をさせずにいかに自分の攻撃を通すかを探るのがとにかく上手い。
しかも一手一手がパターン化しないように攻撃できる箇所を見つけてはそこをついてくる。
さらに短剣が持つリーチの短さと攻撃範囲の狭さというデメリットを見事にカバーしている。
グランは片手剣タイプの聖威剣だから交戦距離はこちらの方が長くとれる。
そんな自分と相手の武器の特性を把握した上で彼女は一瞬一瞬を判断して、最善の攻撃方法を取っている。
戦い方をよく知っていないと出来たもんじゃない。
凄まじい才能だ。
でも一つだけ。
彼女には弱点があった。
「……どうした? 逃げてばかりじゃワタシは倒せないぞ!」
決闘を始めてから数十分が経過。
俺は一度趣向を変え、逃げの一手に講じていた。
もちろん、考え無しにそんなことをしているわけじゃない。
別の言葉を用いれば試していると言ってもいいか。
「くっ、ちょこまかと! ワタシをバカにしているのか!?」
ただ逃げるだけで一刀も振ってこない俺に次第に彼女のフラストレーションは溜まっていく。
そのせいかさっきよりも一撃一撃がザツになってきた。
(そろそろ、頃合いかな……)
俺は逃げの足を止めると、剣を構え、交戦しようとする姿勢を見せる。
あえて一部に隙を作って。
こうすれば、恐らく彼女は……
(……ん? 背後に隙が出来た。これはチャンス!)
リラちゃんは俺が足を止めた瞬間、高速で背後に回ると、
「貰った……!」
懐から神速の如く剣を振り上げ、グランを弾こうとする――が。
「……やっぱり、そう来たか」
「……っっ!?」
俺はその一撃をバク宙でかわすと、彼女の手まで切り落とさないよう短剣の剣先だけを狙って――
「これで、勝負ありだ」
彼女の持つ短剣を宙高く弾き飛ばした。