168.求めるが故に
強くありたいものは貪欲に強さを求めるものだ。
昔は俺もそうだった。
ただ強さを求め剣を振り、勇者軍最強と言われるまでになった。
彼女も恐らくそうなのだろう。
貪欲に強さを求めた結果、より強い者と戦うことで心が満たされる。
気持ちは分かる。
分かるからこそ、俺は断れなかった。
この”決闘”に。
「ルールは先に戦闘不能になったら負け……と言いたいところだが、流石にいきなり戦いを吹っ掛けてそれは図々しいから、剣を奪った方を勝者とする。異論は?」
「ないよ。俺はリラちゃんのルールに従う」
お互いに向かい合う俺とリラちゃん。
あの後、俺は彼女の決闘に乗ることになった。
本来ならば断りたいところだが、彼女の眼を見ていたら断ろうにも断れなくなってしまった。
それほど彼女の向けてきた眼が本気だったのだ。
身体は小さいが、確かに感じたこの子の内に秘める力。
力というのは単純に物理的な力量だけじゃなく、精神的なものや外的な要因(目つきなど)も含める。
強さを力だけでなく、身体全体で表現できることは強者の特権だ。
本当に強い人間というのは内から見ても外から見ても、それが伝わってくる。
この子はまだ幼いのにも関わらず、それがある。
物凄い意志の強さだ。
それも強さに対する純粋な……
俺も元々は大きな志を持っていた勇者であり、一人の戦士だ。
そんな相手を目の前にしたら、無碍にはできない。
戦う意味に年齢など、関係ないのだ。
「俺はいつでもいいよ」
「随分と余裕だな。予め言っておくが、ワタシは相手が誰であろうと手加減はしない。たとえ決闘でも模擬戦でもワタシは全力を尽くす性分なんでな」
「構わないよ。俺も手を抜く気はさらさらないからね」
というか多分手を抜いたら、彼女の力に呑まれてしまう……かもしれない。
彼女の言っていることは本当だ。
恐らく最初から飛ばしてくるだろう。
どちらにせよ、勝負というからには気を抜くわけにはいかない。
『シオン、本当にあの小娘と本気でやり合うつもりか?』
「最初は様子見かな。でもあんな熱意に溢れた眼差しを向けられたら、手は抜けない。行けそうなら早々に決着をつけるつもりだよ」
『勢い余って殺しでもしたら……』
「あの子なら大丈夫だ。あの眼が全てを証明している」
『随分と高く買っているな』
「そういうお前にも分かっているんだろ? あの子が只者じゃないって」
『……まぁな』
「心配しなくてもケガを負わせるつもりはない。今回の勝利条件は武器を奪えさえすればいいからな」
ルールがある限り、それを越えたことはするつもりはない。
できる範囲内で全力を尽くすだけだ。
「お前、さっきから誰と喋っているんだ? 一人でベラベラと」
怪訝な顔をしてそう聞いてくるリラちゃん。
そう言えば、グランのことはまだ言ってなかったっけ。
まぁ剣が喋るなんて誰も思わないだろうからな。
傍から見れば見えない誰かにブツブツと話しかけている変人にしか見えないだろう。
「いや、何でもないよ。そろそろ始めようか」
あまり変なレッテルを張られるのは嫌なので、お喋りはここまでに。
「覚悟は……いいな?」
瞬間。
彼女の目つきがさらに鋭くなる。
しかし変わったのが目つきだけではない。
同時に魔力を通じて、溢れんばかりの力が伝わってくる。
俺はその力を肌で感じ、思った。
「……これは、早々に終わりそうもないかな」