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167.お前、強いんだろ?


 俺は一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 でも明らかにさっきとは雰囲気が違う。


 そして力の高まりも……


「せっかく人が楽しく話していたのに邪魔しやがって……覚悟しやがれ!」


 荒い語調。

 でも声質はさっきとはあまり変わっていない。


 少しトーンが低くなっただけだ。

 

「な、なぁグラン。なんかあの子変になってないか?」


『変になった……というよりは人格そのものが変化したようだな』


「ってことはあの子は……」


『二つの人格を持っているってことだな。そしてそのもう一つの人格を引き出すための引き金(トリガー)があの聖威剣のようだ』


「やっぱりそうだよな……」


 さっきまでのリラちゃんとは容姿と声以外何もかもが違っていた。

 

 好戦的な姿勢。

 口調の変化。


 そして何より変化が凄まじいのは……


「オラオラオラァァァーーーーッ!」


 とてつもない破壊力である。

 ある程度、距離があってもビリビリと伝わってくるこの強いエネルギー。


 そこから生み出される戦闘能力は俺の予想を遥かに超えていた。


(すごい力だ。本当に同一人物なのか?)

 

 その姿は一見して、獲物を狙う狼のよう。

 魔物たちは攻撃をする間もなく、次々と撃退されていく。


『中々に面白い小娘じゃないか。あの幼さであそこまでの力を引き出せるとは……』


「ちょっと引き出しすぎな気もするけどな……」


 今の若い勇者ってホント才能に恵まれたヤツが多い気がする。

 俺が指導している育成組の中にも何人か、凄い潜在能力を持った子がいるし。


 魔物の数は瞬くする間にどんどん減っていく。

 一斉に襲ってこようが、魔法を放たれようが、彼女にとってはおかまいなし。

 全てを威圧だけで跳ね返し、返り討ちにしていく。


 もうここまで無双状態になると、魔物たちが気の毒に思えて来るほどだ。


 そして、戦闘開始から約3分。

 全てが片付き、さっきまで俺たちを取り囲んでいた魔物たちの死体が、あちらこちらに築かれることとなった。


 リラちゃんは右手に聖威剣を持ったまま、俺たちの方へと戻って来る。


「す、すごいねリラちゃん。まさかここまで強かったなんて……」


「大したことじゃない。あれくらい出来て当然だ。ワタシからすれば、戦い足りないくらいだな」


「そ、そうなんだ……」


 やっぱり、さっきまでのリラちゃんとは違うな……

 同一人物と話している気がしない。


 グランも言っていたが、彼女の中には本当に二つの人格があるようだ。


「それよりも……」


 リラちゃんは真っ直ぐな目で俺を見つけてくる。

 さっきまでは青色だった眼が琥珀色に変わっていた。


 リラちゃんは俺に言う。


「ワタシはお前に興味が湧いた」


「……え?」


 突然何を言い出すかと思えば……

 てか興味って……


「あ、あの……リラちゃ――」


「お前、強いだろ?」


「え?」


「ワタシには分かる。会った時から感じていたんだ。お前の中に潜む、その並ならぬ力を」


 じっと俺の目を見て、離さない。

 何か嫌な予感がする……と、俺の勘がそう言っていた。


 その時だ。

 リラちゃんは逆さ持ちしていた聖威剣の剣先を俺の前に突きだしてくると、


「シオン……と言ったな? 今からワタシと勝負しろ」


「……はい?」


 いきなり唐突だな、おい……

 剣先を向けられているってことは決闘の申し出だろうけど……


「ほ、本気……なの? リラちゃん……」


「二言はない。ワタシは……お前に決闘を申し込む!」


 小さい身体から放たれる強気の一言。

 

 でも彼女の言っていることは冗談でも何でもなかった。


 その眼を見ればはっきりと分かる。

 彼女の目は、勝負に飢えた人間の眼をしていた。

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