166.別人、現る!
「ここは、ワタシが引き受けます!」
彼女はそう言うと、小さな背を向け、俺の前に立つ。
見た目はちっこいが、その背中には確かな強さが表現されていた。
経験はまだ浅いが、若さ故の強さが。
そしてそう感じたのと同時に、とてつもない覇気が彼女から放たれる。
それが圧となって、俺の身体に伝わってきた。
「な、なんて凄い覇気だ……本当にさっきのと同一人物なのか?」
『確かにあの小娘、中々のものを持っているな。覇気だけではない。とてつもない潜在能力が眠っているようだ』
「勇者って知った時から何となくそう感じてはいたけど……」
最近の若い勇者ってそういうの多くないか?
やたらと潜在能力があるというか。
リィナの時もそうだったし。
でもこの子の場合はどこか違った。
それはリーフレットやリィナの強さとはまた別に強さ。
何だろう、このざわつくような感覚は……
「シオンさんは一切手出し無用でお願いします!」
「あ、ああ……うん、分かった。でも大丈夫?」
「この程度、全然問題ありません!」
そう言いきるリラちゃん。
相当、自分の腕に自信があるようだ。
とはいえ、本来ならば俺が前に出て彼女を守るべきなんだろうけど。
不思議なもので、何もしなくても大丈夫そうだと思えてしまう。
そして彼女の自信もただのからげんきではないということも。
魔物の数は決して少ない方ではない。
見たところ、30~50……いやそれ以上はいる。
普通の勇者ならば一人でやるには少々荷が重い状況だが……
「行きますよ、フラン!」
リラちゃんは腰に据えた短剣を鞘から抜き、逆手持ちで構えると――
「解放せよ!」
解放の呪文を唱える。
瞬間、彼女の周りに黄色の光が集まって来る。
生命の息吹とも言えようか。
活力を感じる光が、彼女と彼女の聖威剣に注がれていく。
次第にその光は収まり、充実した魔力がリラちゃんを包み込む。
だがその直後だった。
突然、リラちゃんの動きがピタリと止まってしまった。
(ど、どうしたんだ?)
さっきまでやる気に満ちていたはずだったのに、ピクリとも動かない。
おかげで魔物たちは警戒しながらも徐々にリラちゃんを囲んでいく。
「お、おい……マズいんじゃないか、あれ!」
このタイミングで恐怖に陥ってしまったのか。
剣を逆手持ちしたまま、完全にフリーズしてしまう。
俺はグランを手に持ち、すぐに助けに入ろうとするが、
『いや、待てシオン。何かが可笑しいぞ?』
グランに止められる。
「可笑しいって……あれはどう見ても……」
『よく見てみろ。あの小娘を……』
「ん……?」
グランに言われ、リラちゃんの方へと目を向ける。
……と。
「な、なんだ……? このそこはかとない殺気は……」
さっきまではこんな感覚は感じなかった。
でも確かに感じる強い殺気。
別に正面から彼女を見ているわけではないのに……
(何なんだ、この威圧感は?)
異変を感じ取り、すぐにグランから手を放す。
そして、その異変は遂に形となって現れた。
「ふ、ふふふっ! ふははははっ! 久しぶりだ……ようやく、ようやく暴れられるぜ!」




