165.小さな勇者
「なるほど。要するに喉の渇きを潤そうと思ったら、もう水袋に水がなかったと」
「はい。何とか我慢して頑張ろうと思ったのですが、この暑さにやられちゃって、いつの間にか気を……」
経緯としては至って単純な話だった。
でも一歩間違えたら死に至っていたレベルの話だ。
運よく俺たちが通りかかったから良かったものの……
てか、前にもこんなことあったよな。
しかも大体、同じ理由だった気がする。
「本当に、助けていただいてありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。無事ならそれでいいんだから」
でも俺も人のことは言えないな。
一応水袋は持ってきたとはいえ、この暑さに比例した量ほど持ってきたわけじゃない。
しかも俺の場合、運動する予定だったのだから水袋一つじゃ足りないくらいだし。
(これからは気を付けよう……)
そう心に誓う。
「ところで、リラちゃんはこれからどうするの? この辺にいるってことはもしかして勇者軍の本部に?」
「はい! 今日からお仕事をするために故郷から戻ってきたんです。里帰りの為に半年くらい長期休暇を貰っていたので」
「は、半年!? 今の勇者軍ってそんなに休暇貰えるの?」
「貰えますよ。ワタシの場合は有給分も含めて、半年ですけどね。申請さえ通れば、最長で2年くらい休みが取れるらしいです」
「ま、マジか……」
俺がいた時には考えらないことだ。
一応申請すれば休暇は取れる仕組みにはなっていたが、取れても一日二日。
しかも条件が色々と厳しくて、とても大きな理由がない限り、通らないようになっていた。
だからみんな、当時は社畜の如く仕事に勤しんでいた。
だからこそ組織は上手く統率され、一枚岩になっていたのだろう。
しかし、今とはなってはこの有様だ。
リラちゃんの話で、勇者軍が劣化した理由の一端を垣間見た気がする。
「それはそうとシオンさん。一つお聞きしたいことがあるんですけど……」
「なに?」
「さっきから気になっていたんですが、その剣って本当に聖威剣なんですか?」
「そうだけど……どうして?」
「なんかこう……並ならぬ力を感じるというか。それにさっきまで人の姿になっていましたよね?」
「あぁ……それなんだけど、実はこいつ――」
――GYAAAAAA!!
「んっ、なんだ!?」
突然森中に響き渡る謎の唸り声。
その声と共に森に棲む鳥たちが一斉に空へと舞いあがった。
周りにいた動物たちも逃げるように去っていき、目に見えて異変を感じとることができた。
『シオン』
「ああ、魔物みたいだな。しかもかなりの数に囲まれている。大型もいるみたいだ」
俺の読み通り、周囲にはいつの間にか魔物の大群が。
紅の目を光らせ、獲物を狙うが如く俺たちに睨みをきかせている。
「この数は面倒だな……」
そう呟くと。
「どうやら、ここはワタシの手番のようですね」
「り、リラちゃん……?」
いつの間にか、先頭に立ち周囲を見渡すリラちゃん。
その眼光はさっきまでの彼女とはうって変わって、鋭さに磨きがかかっており、魔物たちに狙いを定めていた。
「シオンさん、下がっていてください」
首だけ俺の方を向けると、その鋭い眼で一言放った。
「ここは、ワタシが引き受けます!」
ホント、マジでデジャヴ感すごいな……