164.誤解
ようやく目を覚ました少女。
彼女は意識を取り戻すなり、辺りを見渡した。
「あれ……ここどこ?」
半開きになった目でキョロキョロと状況確認する。
意識が戻りきっていないからか、まだ俺たちの存在に気付いていないようだ。
とりあえず声をかけてみることに。
「どうかな、具合の方は……」
こういう場合、声かけ一つにも方法がある。
相手はまだ意識を取り戻したばかりだ。
だから驚かさないようにするには、最初はできるだけ優しく声量も小さめで問いかけるのが一番――
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!! だ、誰ですか!? 貴方たちは!?」
「えっ、えぇぇっ!?」
ふと目が合った瞬間に叫ばれてしまう。
その悲鳴は森中に響き渡り、逆に俺の方が驚きで身を引いてしまった。
「あ、あの……俺たちは君がたまたま倒れているのを見かけて……」
「まさか、これが噂のレ○プ魔ってやつですか!? 今からワタシは犯されてしまうのですか!?」
「いや、誤解だ。俺たちは――」
「だ、ダメですよ! こ、こんなところでそんな……ハレンチな!」
ダメだ。混乱していて全く話が通じてない。
まさか、ここまで動揺されてしまうとはな……
予想外だった。
「グラン、何とかしてくれ……」
『わ、我を頼るな……女の扱いは分からぬのだ』
どうやらグランもお手上げ状態の様子。
(ならどうする……)
そう考えていた時だ。
「はっ、そうか! これなら……」
一つ良い案を思いつく。
『ん、どうしたシオン? いい案でも思いついたのか?』
「ああ! その前にグラン、とりあえず剣の状態に戻ってくれないか?」
『いいのか? さっきまでと要求が違うようだが……』
「俺に考えがあるんだ。頼む」
『まぁお前がそういうのなら……』
グランは俺の頼みを聞くと、人型からいつもの姿にフォルムチェンジする。
すると、案の定食いつく者がいた。
「あれ、今人が剣に……」
目を丸くしてパチパチする彼女に俺は歩み寄ると、
「これを見てくれ」
剣となったグランを見せると、少女の表情が変わった。
「こ、これって……聖威剣ですよね?」
「正解。実は俺、勇者なんだ。と言ってももう止めちゃったから元勇者なんだけどね」
「勇者……貴方も、勇者だったんですか?」
さっきとは変わって落ち着いた感じで問いかけてくる。
どうやら作戦は上手くいったみたいだ。
相手と共通の話題を振ることで、意識を別の方向へと流す。
これなら、彼女も冷静さを取り戻して耳を傾けてくれるだろうという寸法だ。
「うん、そうだよ。貴方もって言うことはやっぱり君も勇者だったんだね」
「やっぱりって……何故それを?」
「さっきたまたま君の腰にあった剣を見かけてね。聖威剣のようなものだったから、もしかしてって思って」
「そう、だったんですか……」
「ごめんね。驚かせちゃって。君が道端で倒れているのをたまたま見かけたものだから、放っておけなくて」
「い、いえ。こちらこそ甚だしい勘違いをしてしまってごめんなさい。助けていただいたというのにワタシったら……」
「気にしなくていいよ。驚かせちゃったのは事実だからね」
でも良かった。
これでどうにか、俺がレ○プ魔じゃないってことが証明されたみたいだ。
「君、名前は何ていうの?」
「リラです。リラ・イングラム」
「リラちゃんか。俺はシオン、シオン・ハルバードだ。よろしくね」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします。し、シオンさん……」
とまぁ軽い自己紹介を済ませたところで。
次は何故あんなところで倒れていたかについて聞いてみることにした。