161.擬人化グラン
「ぐ、グラン……その姿は……!」
『どうだ? 驚いたか?』
何食わぬ顔でそう言ってくるグラン。
いや、これは誰が見ても驚くだろ!
剣が人に変わるって、小説じゃあるまいし!
でも実際、そうなっているんだから疑いの余地はない。
これが夢であるなら別だが、頬を抓って見る限り、そうでもないみたいだし。
「お前って、そんなこともできるんだな……」
『やろうと思えばな。とはいえ、この身体は魔力操作による力を利用して作っているものだ。当然、魔力消費はするから長時間この姿でいられるわけじゃない。それに我には人でいう五感というものがないから、そもそもこの姿でいるメリットもないしな』
「でも人型になると、そんな感じになるんだろ?」
『まぁな。一応多少なりとも容姿は変えることができるが、この姿が一番魔力の消費が少ないんでな』
「ふ~ん……」
『ん、どうしたシオン? なぜそんなに不機嫌なのだ?』
「別にぃ……」
不機嫌というか、羨ましくて嫉妬しているのだ。
というのもイケメン過ぎるのだ。
仮に作った容姿であっても、羨ましい。
男の俺でもそう思うくらいなんだから、どれほどのレベルかは想像がつくだろう。
とにかく典型的なTHEイケメンって感じなのだ。
しかもイケメンの部類の中でも、かなり高度な要素となる大人っぽさが全身からにじみ出ている。
服の上からでも分かる逞しい身体。
高身長。
美しい容姿。
男の願望が全て詰まったような男(中身は剣だけど)が今目の前にいるのだ。
そりゃ、嫉妬しても仕方ないだろう。
もちろん、本人には言わないけどな。
『まぁとにかく、これで少しは変わるだろう。早速続きを始めよう』
「そうだな。俺も何故か知らないけど、すごくやる気が出てきたわ。ちょっとばかり、本気ださせてもらうけどいいか?」
『あ、ああ……別に構わないが……』
グランはこの時、思った。
さっきと比べてシオンの様子がどこかおかしいと。
可笑しいというのは悪い意味で、というわけではない。
なんかこう、言葉で言い表せないような圧が迫って来るような……。
(……考えすぎか)
そんな疑問を抱きつつも、グランは手元に魔力で形成した剣を出現させる。
「行くぞ、グラン!」
『……来い!』
かくして。
俺とグランの”続き”が始まった。
剣と剣がぶつかり合う音が、再び森中に木霊する。
『ぐっ! さっきよりも力が……!』
「どうしたグラン! さっきのようなキレがないぞ!」
『ちぃ……!』
グランは俺の怒涛の連撃に成す術がなく、一度距離を置くと。
『なるほど……お前がその気なら、我にも考えがある』
グランの表情が一変。
同時にどっしりと身体全体にとんでもない魔力が圧となって襲い掛かって来る。
「やべ……やる気スイッチを入れてしまったか……」
今になって少し後悔するが、もう遅い。
グランの目はやる気に満ち溢れていた。
『さぁ、相棒。ここから本当の勝負だ。遠慮せずにかかって来い!』
その闇を纏った剣を手に持ち、微笑するグラン。
自業自得とはいえ、もう後には引けない。
「あ、ああ! い、言われなくてもやってやるさ!」
これはちょっとどころか割とマジでやらないとやられるかもな……。
そう思いながら、ギュッと握りしめた剣を恐る恐る構える。
そして、俺とグランの第二ラウンドが幕を開けた。




