156.デカい仕事
第7章に入ります!
「よし、一応試作品はこれで完成だな」
時が進むのは早いもので。
剣作りに着手してから既に二週間以上が経過していた。
俺はあれから何度も試行錯誤を重ね、女王陛下に献上する剣造りに励んでいた。
そして今日、試作第一号が完成したのである。
「とりあえず、強度チェックをするか……」
他にもやることは諸々あるけど、最重要課題として使える剣というのが前提でないといけない。
寄贈品用や展示用の剣と違って、品質が良くても強度が悪ければ何の意味も成さない。
ましてはこれを贈る先は剣にこだわりを持つ王族の姫君だ。
ちょっと強度があるだけの半端なものは作れない。
「お、とうとう出来たのか!」
「あ、親方。お疲れ様です。何とか試作完成段階まではたどり着けました」
作業台を眺め、そんなことを考えていると専用の作業部屋から親方が出てくる。
親方も親方で最近大きな仕事が入ったらしく、同じ工房にいても一日に2~3回程度しか顔を合せなくなっていた。
妙に最近テンションが高いことから、相当大きな仕事が入ったのだろう。
ちなみに今日はもう夕刻なんだが、初めてのご対面だ。
「長かったな。二週間はかかったか?」
「ええ。ちょっと素材の扱いに難儀してまして」
「で、どうなんだ? 納得がいくものになったか?」
「まだまだです。これでやっと及第点ってところですね。まだ強度チェックとかも残ってますし」
「ま、期限まであと二か月以上あるんだ。焦る必要はない。むしろ焦ったら焦った分だけ完成が遅れるぞ」
「そう、ですね……」
とはいってもやはり気持ち的に焦りが生じてしまう。
さっきも言ったが、たとえ剣が完成してもそれが使えないと意味がない。
それと女王への確認作業もある。
一応事前に聞いてある要望を出来る限り反映させて作ってはいるが、確認作業は必須だ。
これは別に相手が女王だからというわけではなく、一般客にも同じことをしている。
認識の行き違いがあったら、職人側もお客側も損を被ることになるしな。
要望と違うと言われれば、作り直さないといけないし。
そう言った過程もあるからこそ、できるだけ早い段階でいいところまで持っていきたい。
そんな想いが焦燥感を際立たせる要因となっていた。
「まぁなんだ。何か困ったことがあれば気兼ねなく言ってくれ。俺も作業があるからいつもとはいかないが、力になるからよ」
「ありがとうございます。そういえば、親方は一体誰から依頼を受けたんです? 最近デカい仕事が入ったって噂を聞いたんですけど……」
「ある人物から武器を作ってくれっていう依頼が来てな。……聞きたいか?」
「は、はい。あ、でも開示できない依頼ならいいんですけど……」
「いや、開示はできるぞ。流石に依頼主の個人情報までは言えないがな。言ったら殺されちまうよ」
「誰なんですか? その依頼者って……」
そう聞くと親方はニヤリと意味深な笑みを浮かべる。
そして胸ポケットから一枚の紙を取り出すと、俺に差し出してきた。
「これは……注文確認票ですか?」
「ああ。その紙の一番下の欄を見てみろ」
紙を広げ、親方の言う通り一番下に見てみる。
一番下には依頼人の名前がデカデカと書いてあった。
「アルフ=フォン・ステイシア……?」
依頼人の欄にはそう書かれていた。
どこかで聞いたことがある名前だが……
「はっ、この人ってまさか……」
「そうよ。依頼を出してきたのはアルフ=フォン・ステイシア。ステイシア公国の公王にして大剣聖と呼ばれし男……世界に魔法という概念を齎した大賢者レヴィの実の孫だ」