155.心境変化
いつもご愛読、ありがとうございます!
前回の後書きでも書きましたが、これにて番外編1は終わりになります。
続きは書き上がり次第、章の間で投稿させていただく予定です。
次回から7章(シオン視点)の内容に入っていきますので、引き続き当作品をよろしくお願い致します!
「なるほど。要するに彼女と比べられるのが嫌なんだね?」
聞いてくるユーグ先輩にわたしは首を縦に振った。
「正直、わたしと彼女とでは実力に大きな差があります。もちろんそれは分かっています。でも……」
「何とも言えない気持ちになるよね。分かる、その気持ちすっごく分かるよ。俺も似たような経験をしたことがあるからね」
「ユーグ先輩も、そのようなご経験を?」
ユーグ先輩は「まぁね」と言いながらニヤッとすると、少しだけ過去を出来事を語ってくれた。
「俺にも昔、とんでもない同期がいたんだ。そいつはもう才能なんて一言じゃ片付けられないくらいのものを持っていてね。誰がどんなに足掻いても決して届かないような……そんな才能を持っていた奴なんだ」
「そ、そんな人が……」
「俺もリィナちゃんくらいの時からそこそこな実力者でね。軍でも名前が通るほどだったんだけど、彼の影響力の前には全く歯が立たなかったよ。むしろ飲み込まれていっちゃった。比較されることすらなくね」
「……」
ユーグ先輩は息をつく間もなく、話を続けた。
「正直劣等感は凄くあったよ。同じ立場にあるのに何でこうも違うのかってね。それもどんなに努力しても差が縮まっていかないもんだから、余計辛かったよ……」
「じゃあ、ユーグ先輩は一体どうやっ――」
「でもね。ある時、気づかされたんだ。人にはそれぞれにしかできない役割があるんだってことを」
先輩はわたしの言葉を遮る。
同時に先輩の表情がキリッとなった。
「役割……」
「そうさ。確かに才能や実力差で人は優劣をつけることができてしまう。でもその人にはその人の役割ってのがあるんだ。いくら天才だろうが何だろうが、何でも一人でできるわけじゃない。むしろその人にはできないことを自分が持っていたりすることもあるんだ」
「どういう意味です?」
いまいち内容にピンとこない。
そんな表情を見せていると、先輩は自身の体験談から教えてくれた。
「例えば俺に関しては、さっき言ったバケモノ級の天才にはないものを持っていたんだ」
「そ、それは……?」
ゴクリと息を呑むわたしに先輩は一言で言った。
「……笑いのセンスさ」
「……はい?」
予想もしなかった一言だった。
でもユーグ先輩は真面目な顔をして言っている。
冗談で言っているわけ……じゃなさそうだ。
「笑いのセンス……とは何です?」
意味が分からないので聞いてみると。
「分かりやすく言えば、人の士気を上げることができるってことだ。ムードメーカーとでも言えばいいかな」
「そういうことでしたか」
なら初めからそう言えばいいのに……と心の中で思ってしまう。
「でもそれが役割として機能するのですか?」
「もちろん! 部隊の士気というのはズバリ、部隊全体の行動に影響すると言っても過言ではない要因だからね。天才だった男は確かに天才だったけど、ムードメイクはできなかった。というか、人付き合いがものすっごく下手だったんだ」
「そんな短所があったんですね……」
「そう。だからそれに気づいた時に自ずと自分のすべきことを理解できたんだ。自分で言うのもあれだけど、それからの成長具合が半端なかったよ。気付いた時にはまるで別人のように強くなっていた」
ユーグ先輩はここで話を区切ると、再度続けた。
「まぁ結局何が言いたいのかっていうと、自分のすべきことに気付けるか気付けないか。そしてそれを誠実に受け止め、気持ちの切り替えができるか……ってことかな」
「自分のすべきことに気付けるか……ですか?」
「うん。その人にはその人にしかできないことが必ずあるんだ。天才とか才能があるとか言われている人間はその幅が常人よりも広いだけで、その人が神でもない限り、決して全能なんかじゃない。だから見つけるんだ。自分にしかできない役割をね」
「自分にしかできない役割……」
リーフレットにできないことなんてあるんだろうか。
考えてみても、全く思いつかないし、見当もつかない。
でもユーグ先輩の言っていることが、本当なら……
「……よく分かりました。ありがとうございます、ユーグ先輩」
「少しは力になれたかな?」
「はい。もう少し、自分と向き合ってみようと思います」
「そっか。なら良かった! また何かあったら気兼ねなく来てね。何でも相談に乗るから」
「ありがとうございます。では、わたしはこれにて」
「うん。また次の鍛錬の時にね~」
「はい。それでは失礼します」
一礼し、部屋を去ろうとした時だ。
「あっ、ちょっと待ってリィナちゃん!」
突然ユーグ先輩に待ったをかけられる。
「何ですか?」
立ち止まり、再び振り返ると、
「部隊編成についてなんだけど、どうする? あんな話をした後でこういうことを言うのもあれなんだけど、調整しようと思えばできるよ。部隊から外れることを望んでいるのならば、それも不可能ではないし。なんたって俺は総指揮官だからね。やろうと思えばできるんだけど……」
本当に今更な話だ。
初めにこれを言ってくれればまず間違いなく、再編成をお願いしていたところだろう。
でも不思議なもので、今はそうしてもらおうとは全く思っていなかった。
「いえ、大丈夫です。そのままでお願いします」
自分の意思のままに、わたしはそう答えた。
するとユーグ先輩は何故か優しい微笑みを見せると、
「分かったよ。明日も鍛錬があるから、しっかり休んでおくようにね」
「……はい!」
わたしは最後にもう一度お辞儀をすると、静かに部屋から去った。
(何だろう。なんかさっきと比べて心が軽くなった気がする)
たったあれだけのことで変わるのか、と疑うが、間違いなくさっきよりかは気が軽くなっていた。
もしかしたら、一時的なものなのかもしれない。
けど、これだけは自信を持って言える。
まだ自分にも、僅かながら希望が残されているんだということを。