154.その理由
「何故リーフレットさんをわたしと一緒の部隊に組み込んだのですか?」
話はようやく本題へ。
言い方を選ぶのは面倒だし、また話題が逸れるのは嫌なので単刀直入に聞いてみることに。
するとユーグ先輩は不思議そうに首を傾げた。
「なんでって……そりゃあ実力的に二人が組めばいいんじゃないかって思ったからなんだけど……」
「そ、それだけ……なんですか? 戦術的考察とかを考慮した上で決めたわけじゃ……」
「全く考慮してないよ。というか俺、そういうまわりくどいこと嫌いだから編成組む時は実力が近い者同士で組むようにしているんだ。上から順にね」
ということは彼女と組むこと自体、全くもって何の意味もないということ?
だったら尚更、納得がいかない。
鍛錬でも戦地でも比較されるなんてごめんだ。
戦場なら、尚のこと。
自分がどんどん惨めになっていく。
別に恨みがあるわけじゃないけど……わたしにとって彼女と組むのはこの上なくやりにくいのだ。
「もしかして、編成に不満があるの?」
「不満がなかったら、こうして直接会いにきたりしませんよ……」
正直、こういうノリをする類の人は極力関わりたくないし。
「ま、まぁ確かにそうだね。でも何で? あ、もしかしてリーフレットさんと仲が悪いとか?」
「そういうわけじゃないです。でもわたしにとって彼女と組むのはやりづらいんです」
「やりづらい……? どうして?」
「……」
わたしはしばらく黙り込んだ。
言うのを躊躇っていた、と言えばそうだ。
ここまで来て今更と思われるかもしれないけど、自分の中で迷いが生じてしまったのだ。
というのもこの異議申し立ては一般的には上官に対する命令違反とも捉えられる。
実際、わたしもリーフレットに負けないくらい成果は出してきた。
だからユーグ先輩の言っていることは間違ってはいない。
それに、これはわたし個人の問題だ。
理由はどうであれ、簡単に変えてしまっていいものなのか……。
そんな迷いがわたしの脳内を駆け巡った。
すると、突然脳内にあの人の声が響いてきた。
「あの~リィナちゃん~?」
「……ッ!?」
ふと顔を上げると、怪訝そうに顔を覗いてくる先輩の姿が。
あまりに考え込んでいたからか、全然気づかなかった。
「す、すみません! その……お話中に……」
「それは全然OKだけど、大丈夫? なんかすっごい深刻そうな顔してたけど……」
「そ、そうですか?」
「うん。なんかずーーっと怖い顔してたよ?」
顔が怖い……か。
立場が変わって、部下が出来てからよく言われるようになったことの一つだ。
いつも怖い顔をしている。
近づけるような雰囲気じゃない。
怒っているように見える。
わたしが管轄する部下たちが前にこんな陰口を言っていたと、同僚から聞いた。
(わたしって、そんなに怖いのかな……)
確かに笑顔を作るのは苦手だけど……
「ねぇリィナちゃん」
「は、はい?」
突然真剣なトーンで名前を呼んでくるユーグ先輩。
だが真剣なのは声だけではなく、顔もさっきまでずっとヘラヘラしていた人とは思えない面構えになっていた。
とんでもない切り替えの早さ……。
今の彼はさっきまでとはまるで別人のようだった。
ユーグ先輩はその面をそのままに。
わたしにこう語りかけてきた。
「話してくれないかな? リィナちゃんの内にあることを。もしかしたら力になれるかもしれない」
「で、ですが……」
「別に全部言わなくてもいいんだ。話せる範囲で話してくれれば、それだけでいい。あ、ちなみに言っておくけど、これは上官として君に聞いているわけじゃない。あくまでプライベートでのことだ。だから気にしないで話してほしい」
「本当に……いいんですか?」
「もちのろんだよ! さぁ、話してごらん!」
不思議だった。
この時、わたしはこの人にだったら話してもいい……そんな気持ちがあった。
この話は他の誰にもまだしたことがない。
話すとすれば、この人が初めての相手になる。
正直な話、相当濁して説明することも可能だ。
でも、それじゃあいつまで経ってもわたしの内に眠る迷いは解消できない。
そんな気がするのだ。
だから……。
「……分かりました。お話します、全てを……」
わたしは決意を固めると、彼にそう言った。
全てはわたしを強く縛り付ける呪縛から、解放されるために。
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次回で番外編1は完結になります。