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151.天才と凡人


 その少女はまさに天才の一言に尽きる人物だった。

 何を要求されてもそつなくこなし、ものの一週間でその地位は高い位置へと確立されていった。


「――今日も凄かったな、リーフレットちゃんの剣技!」


「――ああ……あれがまだ入ってきたばかりの新人とは思えないぜ。ありゃあもう将来の幹部候補だな」


 当然、天才と称される人間の噂は広まるのが早い。

 もう何度この話題を耳にしてことか。


 それこそ耳に胼胝ができるくらい、聞いた。


 でもわたしだって負けてはいなかった。

 入隊試験に合格し、聖威剣セイバーエアの剣主になってから、わたしも実力でその名を広げていった。


 より高みを目指すために必死に努力し、驚異的なスピードで成長を遂げて行った。


 だがリーフレットという天才がいるせいで、わたしの名はその陰に隠れるかのように霞んでいた。

 

 最初は別に知名度や名誉なんてどうでもよかった。

 わたしが欲しいのは財力ただ一つ。


 家族を養うためのお金だけだ。


 でも、そういった日々を重ねていく内に次第に思うことが出てきた。

 

 何をするにも毎回毎回比べられるのだ。

 あのリーフレットという人と。

 

 別に比べてほしいわけじゃないのに、事あるごとに比較された。


 今思えば、知名度があるから故の惨事とも言えよう。

 

 わたしはそれが不愉快で仕方なかった。


 正直、わたしとリーフレットでは差があった。

 わたしは凡人だ。


 リーフレット(あの人)ほどの才能はない。

 

 それは自分がよく理解しているし、彼女が自分より上の存在であることは自覚している。

 でも傍観者たちはこぞってわたしと彼女を比較、批評する。


 リィナちゃんはリーフレットちゃんの劣化版とか。

 才能の質が違うとか。

  

 他にも諸々言いたい放題言われ続けた。


 そうしてわたしの心は、知らない間に少しずつ、蝕まれていったのだ。



 ♦



 勇者軍に入ってから一か月ほどが経過した。

 気がつけばわたしは育成組の枠を外れ、最年少ながらAランク勇者へと上り詰めていた。


 幾度か実戦も経験し、その名は勇者軍全体にまで広がっていた。


 もちろん、例のあの人も同様だ。

 彼女の場合は実戦の、しかも最前線での任務を任されるまでになっていた。


 同じランクでも立場は違った。


 そしていつものように他人による批評大会が始まる。

 演習中に耳を傾ければ、わたしとリーフレットの話題でもちきりになる。


 耳障りもいいところだ。


 だが彼女(リーフレット)はそんなことなんて気にしてもいないようだった。

 彼女はわたしとは違って社交的で誰とでも仲良く接するタイプの人だ。

 

 当然、わたしと比較される話題は彼女の耳にも入っているだろう。


 でも彼女は気にも留めていないようだった。

 話を振られても笑ってごまかす。


 わたしはその姿を見て、何とも言えない感情が心の内から湧き上がってきた。


 興味がないのか、それともそれ以前の問題として眼中にすらないのか。


 その真意は不明だけど、穴が開き始めていたわたしの心には大きなダメージだった。

 

 そしていつしか、わたしは彼女を恨むようになっていた。


 彼女がいるから、わたしはこんな想いをしないといけない。


 リーフレット・ルーデントという存在が、わたしを不幸にしていると。


 思い返すと、実に身勝手な持論だけど、まだ心も身体も幼かったわたしにとってはそう受け止めるしかなかったのだ。


 自分を守るために。


 だが、そんなある日のことだ。


「えーー、今日集まってもらったのは他でもない。君たちにはここ最近、アルフファイムの森で多数報告が上がっている謎の大型魔獣の討伐に行ってもらいたい。総指揮はSランクのユーグ・フリードマンが務めることになった。そこで、今から君たちAランクには彼の指示に従って討伐部隊を編成してもらう」


 わたしたちの上官に当たる人が概要を端的に語ると、その背後からもう一人出てきた。

 恐らく彼が部隊の総指揮を務めるユーグ・フリードマンという人なのだろう。


 なんか見た目からチャラチャラしてそうで、苦手なタイプだ。


 その人は一歩前に出ると、拡声器を手に持ち、話し始めた。


「えー、マイクテスマイクテス。ごっほん! えー、皆さんこんにちは! 今日からAランク討伐部隊の総指揮をさせていただくことになりました、ユーグ・フリードマンです。よろしくっす!」


 わざとらしい演技を挟み、これまたチャラチャラとした話し方で自己紹介をする。

 

 やっぱり予想通りの人だ。

 わたしの苦手なタイプ、ナンバーワンである。


「これから皆さんには僕の指示のもと、部隊を編成してもらいます。もうこの名簿に記入してあるので、名前を呼ばれたらおーーーーっきな声で返事をしてから、前に出てきてね~」


 いちいち癪に障る話し方で話を進めていく。


 部隊編成と言ってもいつもことだ。

 わたしが部隊長を務め、リーフレットが大隊に組み込まれる。


 わたしとしてはその方が気楽だった。

 同じ場所にいると比較されて仕方ないからだ。


 近くにいるだけで劣等感だけが募っていく。

 わたしにとっては屈辱的なことなのだ。


「んじゃ、発表するね~」


 喋り方のせいで込み上げてくつ妙なイライラを封じ込め、指示を待つ。

 だが、次の瞬間。

 

 わたしの予想とは大きくかけ離れた指示が彼の口から発せられた。


「えー、じゃあ大隊から順に発表していくね。まずAランク討伐部隊の大隊長はリーフレット・ルーデントさん。そしてその補佐として副大隊長にリィナ・フローズンさんを指名します!」


 …………え?


 わたしはその発表を聞いた後、少しの間だけ動作不能に陥る。


 ……わたしが、リーフレット(あの人)の補佐役?

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