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149.進展……?


 あれから時は進んで、次の日。

 俺は再びリィナちゃんにお呼びを受け、施設のカフェにやってきた。


 いつもボードゲームをして負けた時に罰ゲームとして訪れるカフェだ。

 そこでリィナちゃんはいつも食べる大好きなシュークリームを頬張りながら、俺を待っていた。


「ごめんね、仕事があって少し遅くなっちゃった」


「(もぐもぐ)いえ、だいひょうぶれふ」


 シュークリームをもぐもぐしながら、話すもんだから何を言っているのか正確に聞こえない。

 多分、「大丈夫」って言いたかったのだろうけど。


 すると、俺はリィナちゃんの口元に焦点を当てた。


「あ、リィナちゃん。ここにカスタードクリームがついているよ」


 俺は自身が持っていたハンカチを手に取ると、リィナちゃんの口元をそっと拭いた。

 リィナちゃんは俺の唐突な行動に驚いたのか、身体をビクッとさせる。


 そしてじーっと俺の方を睨んできた。


(あっ、やべ。ついいつもの癖が……)


 俺は口元に何かがついていると気になってしまって仕方がない症候群なので、男女問わず指摘はする。

 

 ただ、女の子には自分から拭いてあげることが多い。

 男の場合は、ティッシュを授けるだけだが……


「ご、ごめんリィナちゃん! つい身体が……」


 彼女がこういうスキンシップを嫌っているのは百も承知。

 しかも相手が俺なら尚更――


「(……ごっくん)い、いえ……こちらこそすみません。お手間をおかけしてしまって……」


 ……あれ?


 いつもと反応が違う。

 普段なら睨んできた後に容赦ない罵倒を浴びせてくるというのに。


「いきなり呼び出してしまってすみません。先輩に伝えたいことがあったものですから」


「お、俺に伝えたいこと?」


「はい。まずは昨日の件、本当にありがとうございました。おかげでリーフレットに私が持つ気持ちを伝えることが出来ました」


「ああ、いや……俺は何もしてないよ。むしろ最後の最後で……」


 あんな失態を起こすことになろうとは。

 まぁ終わり良ければ総て良しと言ってしまえばそこまでなんだけど。


 もし失敗していたらタダじゃ済まなかっただろうな……


「あ、あれは確かにサイテーでしたね。まぁ先輩のことだから、と思えば違和感を感じることはありませんでしたが……」


「そこは違和感感じて!?」


 相も変わらず酷いイメージである。


「でもあのメッセージはすごく嬉しかったです。あの一言のおかげで勇気を出すことができました」


「メッセージ? ……ああ!」


 俺がマジックボックスにこっそり張っておいた張り紙のことか。

 本来なら口頭で伝えたかったけど、状況が状況だったから、ああいう形にした。


「それは良かった。俺もリィナちゃんが無事に思いを伝えられることができて嬉しいよ」


「……」


「……ん? リィナちゃん?」


 彼女は急に無言になり、俺から目線を逸らす。

 そしてそれが数秒ほど続くと、彼女は再び口を開いた。


「あの、今日お呼びしたのは理由がありまして……」


「あ、うん」


「そ、その……お礼をしたいなと思いまして。わたしに出来る範囲でですが、何かあれば何でも――」


「何でもッッ!?」


 そのワードを聞いた瞬間に、俺の身体全体に電流が走ったかのような衝撃が駆け巡った。

 まさかあのリィナちゃんの口から「何でも」なんて言葉が聞けるとは……


 これが夢なのか? 夢なんだろうか!?


「か、勘違いしないでください! わたしに出来る範囲での話です。わたしが嫌だと思えば容赦なく拒否しますから! あ、あとお願いは一つだけですからね!」


 慌てて弁解するようにそう言うリィナちゃん。

 流石に俺も無理難題なお願いはしないさ。


 でもこんなチャンスは滅多にない。

 というかこれで最初で最後になるかもしれない。


 リィナちゃんに何でも一つお願いができる……俺がもっと彼女と親密になるのはこのチャンスを上手く生かさなければ!


(だがどうする? どんなお願いがいい?)


 第一条件として本人が言った通り、ある程度一線を引いたお願いをしないといけない。

 何でもと言っても当然、嫌な事もある。


 もし気分を害してしまったらお願い自体がなくなってしまうかもしれない。


 それだけは避けるべきこと。


 しかし俺が求めるのは彼女と親密になるための布石を作れるようなお願い。


 今までリィナちゃんの言動から少し賭けとなるお願いにはなるが、今考えられる無難なものはこれしかない。


「ねぇリィナちゃん。それなら、今度俺と一緒にどこかに出かけない?」


「お出かけですか?」


「うん。こういう施設を巡るのもいいし、思い切って少し遠出するのもいいし。どう……かな?」


 緊張感が走る。

 これで断られたら他の案を考えなくてならない。


 リィナちゃんは少し考える素振りを見せたが、すぐに返答をくれた。


「そ、それくらいなら大丈夫です」


「え、ホント!?」


「はい……先輩はそれでいいんですか?」


「も、もちろんだよ! じゃあ今度一緒にどこに行くかプランを立てよう! 仕事終わりとかに!」


「わ、分かりました……」


 よっしゃぁぁぁっ!


 これはとんでもない収穫だ。

 リィナちゃんと完全プライベートでのデートなんて、願ったり叶ったりのものだ。


 これで少しは希望が見えてきたぞ!


「なんかすごく嬉しそうですね」


「えっ、そう?」


「はい。さっきからずっとニヤニヤしていたので。正直、キモかったです」


「き、キモッ……!?」


 嬉しさから一転。

 容赦ない一言にメンタルが崩れ去っていく。


 いつものことだけど、やっぱりキツイ。

 他の子に言われても何ら問題はないんだけどな……


 そう落胆していた――次の瞬間。


「……ふふっ」


(えっ……?)


 一瞬、本当に一瞬だった。

 クールな彼女は少しだけ口元を歪め、静かに笑ったのだ。


「あ、い、今笑ったな!?」


「いえ、笑ってないです」


「いーや、絶対笑った!」


「笑ってないです」


 すぐに指摘したが、今の彼女はもう素の状態に戻っていた。

 いつものクールで無口で無表情なリィナちゃんだ。


「な、なにが面白かったんだよ! 俺が落ち込む姿がそんなに可笑しかったのか!?」


「別に、可笑しくなんかないですよ」


 その後。

 彼女の口から笑った理由は明かしてくれることはなかった。

 

 でも今はそんなことなんてどうでもいい。


 こうして大きなチャンスを手にすることが出来たんだ。

 何が何でも成功させてみせる。


 これを進展というにはまだ早い判断かもしれないけど……


 今はこれだけでも、満足だ。


「んじゃ早速明日から計画を――」


「あっ、明日からは三日ほど遠征任務につくので無理です。来週以降でお願いします」


「えっ……マジ?」


 前言撤回。

 正直、前途多難な気がしてならないです。


 多分、これは神のお告げだ。

 どうやら満足するには、まだ早いらしい。


 嬉しさがこみあげると同時に急に不安も湧き上がって来る。


(はぁ……果たしてうまくいくのだろうか……)

 

 ある日の昼下がり。

 シュークリームを小さな口で頬張る少女を見ながらそう思う、俺であった。

いつもご愛読、ありがとうございます。

これにて6章は終了となります。

次回は6章の番外編を数話ほど投稿した後、7章に移ろうと考えております。

これから引き続き、当作品をよろしくお願いいたします。

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