147.殺意の目
「うぅ、いたたた……」
「う……大丈夫リーフレット?」
「う、うん。わたしは平気。リィナこそ大丈夫だった?」
「わたしも大丈夫。それよりも……」
突然頭上から振ってきた謎の物体。
どうやら雑誌? のようなものが落ちてきたらしい。
わたしは辺りに散乱していた中の一冊手に取る。
すると、目に入ってきたのは……
「な、何これ……」
視界に入ったのは水着姿できわどいポーズをする女性の表紙。
その表紙には『今話題の新女優アリスちゃんの――』という長ったらしいタイトルが書いてあった。
他のも似たような冊子ばかりだった。
(こ、これって……)
間違いない、これは……エッチな写真集だ。
でもなぜこんなものがマジックボックスから……
「あ、あのリィナ? これは……」
「ち、違うのリーフレット! これはわたしのじゃなくて……!」
考えるよりも先に誤解を解かないと。
そう思い、まずは周りに散らばった写真集を一点に集める。
盛大にやらかしたせいか、周りの人の視線はわたしたちに向けられる。
だが、わたしにとってはそんなことなどどうでもよかった。
とにかくリーフレットにだけは勘違いされたままにするわけにはいかない。
思わぬアクシデントで頭の中が混沌としている中、わたしがリーフレットに弁解をしようとした時だ。
「ちょっと待ったァァァァッ!!」
大きな叫び声と共に。
謎の人影がスライディングしながら、わたしたちの間に割って入ってきた。
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「ちょっと待ったァァァァッ!!」
叫び声で周りの人のヘイトを向かせ、俺は二人の間に入る。
そして集められていた写真集を素早く手に取ると、奇跡的にポケットの中に入っていた袋にぶちこんだ。
「ふぅ……これで一安心。それじゃ二人とも、後はごゆっく――」
「待ってください、先輩」
「……ッ!」
何もなかったかのように去ろうと、振り向いた途端に待ったをかけられる。
恐る恐る後ろを振り向いてみると、今にも凍え死にそうなくらいの冷たくきつい視線が俺の方に向けられていた。
「やっぱり、先輩のだったんですね。グラビア写真集」
「い、いやぁ……俺としたことがうっ――」
「うっかり……だなんて、言い訳にならないですよ先輩」
「ひぃっ!」
怖い、半端なく怖い。
これはもう目線で殺しにきている。
というかなんかもう既に前のめりになっているし彼女。
(なにオレ、今から殺されるの!?)
こんな美少女に。
お仕置きなら、むしろご褒美だが、彼女の視線を見る限り、違う様子。
完全に殺意に満ちた目だった。
彼女はその眼を向け、瞬き一つすらせずにジリジリと近寄って来る。
「……せっかく、勇気を出してここまで来たのに台無しにしてくれて。もちろん、覚悟はできてますよね?」
「ご、ごめん! いや、ごめんなさいリィナちゃ……じゃなくてリィナさん! これはほんの手違いというか……」
「手違いでどうやったら、あんなにも沢山のえ、ええエッチな写真集が出てくるんですかっ!」
少し頬を紅潮させ、照れ気味なリィナちゃん。
思わず可愛いと言ってしまいそうになってしまった。
が、今はそれどころではない。
今は何とかこの場を切り抜けなくては……
(本当に殺されてしまう!)
「せめてもの情けで痛くはしません。一瞬で終わりますから……」
気がつけば、リィナちゃんの右手には小さな短刀が。
刃の部分をこちらに向け、殺す気満々の持ち方をしながら徐々に近づいてくる。
「ね、ねぇリィナちゃん。それって流石に模造刀とかだよね? 本物じゃないよね?」
「さぁ……どうでしょう」
一瞬たりとも表情を変えないリィナちゃん。
いつものクールな振る舞いにさらに拍車がかかり、その怖さは何時もの比にならないくらい。
(くっ……俺としたことが最後の最後で……)
気絶とかで済むならそれでいい。
そもそも今回の一件はマジックボックスに入れることを提案した俺が全面的に悪いのだから。
むしろ喜んで気絶しよう。
数日間、夢の中で過ごす覚悟なら出来ている。
仮に殺されたとしても、好きな人に殺されるなら……まだ受け止められる。
「では、御覚悟を……」
「ううっ……!」
やられる覚悟を決め、目を瞑った……その時だ。
「わぁぁぁっ、可愛い! これ、モジャンボくんの新しいぬいぐるみだよね!?」
後ろでリーフレットちゃんの甘い声が耳元に入ってきた。