146.緊急事態
わたしは今、猛烈に緊張している。
生まれて初めて、大好きな親友にプレゼントを渡そうとしているのだ。
たかが、それだけのことで?
そう思うかもしれないが、わたしにとってはそれだけでも十分勇気のいることだった。
だって、彼女はわたしにとって特別な存在なのだから。
「こ、これっ! わたしからのぷ、ぷぷプレゼント!」
「えっ、リィナもわたしに?」
少し驚きを見せつつも、わたしが差し出したマジックボックスを受け取る。
もちろん、例の張り紙は事前に取って置いた。
流石に見られたら、死ぬほど恥ずかしいから。
「あ、あの……開けてみて……」
「う、うん……!」
リーフレットはゆっくりとマジックボックスの蓋を開ける。
すると。
「……え?」
「きゃっっ!」
突然中からドサドサと色々なものが、雪崩のようにわたしたちの頭上に降り注いできた。
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「頑張れ、リィナちゃん!」
俺は物陰からリィナちゃんの様子を見守っていた。
本当はもっと直接的に力になってあげたいが、彼女には彼女なりのプライドがあるだろうと。
そう思って間接的な形になってしまったわけだが……
「中々、差し出さないな……」
何を話しているのか分からないが、しばらく二人で談笑していた。
それにしても……
「リィナちゃんってあんな表情できるんだな……」
俺には絶対に見せないような表情。
あんなに笑顔で話すリィナちゃんは初めて見た。
二人きりだといつもあんな感じなのか、全くの別人にさえ思えてくるほどだ。
他の人にもクールビューティーを貫く彼女だが、今のリィナちゃんが見せる表情はその辺にいる子と変わらない年相応の少女の笑顔だった。
「よほどリーフレットちゃんに対して特別な想いがあるんだな……」
気を許している関係だからこそ、見せられるものもある。
俺とシオンみたいな関係のようなものなのだろう。
「――なぁ、アリスちゃんの新作グラビア見たか? 今回もすんごかったぜ?」
「――マジで? 俺まだ買ってないんだよ。どこも売ってなくて……」
若い男たちの会話がすっと耳に入って来る。
「そういえば、俺も何冊か新しいグラビアアイドルの写真集買ったな。あれ、どこにしまっておいたっけ?」
俺の趣味の一つ。
それは人気グラビアアイドルの写真集を集めること。
何故か? というと単純に昔から集めているからということが大きな理由だ。
昔から押しの女優さんがいて、今もちょくちょく写真集を買っているというわけ。
あ、別に如何わしい用途を目的に買っているわけじゃないぞ。
単なる応援というかファンとしての購買行動だ。
でも妙だな。
どうにも嫌な予感がする。
「あの写真集、確か書棚に入らないから一度保管で……あっ!」
ピーンと閃いたかのように俺は思い出す。
それは今彼女が持っているマジックボックス。
その中に保管しておいたということを。
「確かマジックボックスって一度開けると、全部出てくる仕組みになっていたよな?」
別に俺以外の人間が開けることはないだろと思っていたので、ぶちこんでしまったが。
今、ここで開けると俺が大量に買い込んだグラビア写真集が盛大に露呈されることとなる。
「ヤバイ、それだけはマジでヤバイ!」
もしそうなればせっかくのプレゼント譲渡会が台無しになってしまう。
俺はすぐに物陰から飛び出して二人の元へと駆け寄る。
……が、もう時すでに遅し。
いつの間にかリーフレットちゃんの手元に渡っていたマジックボックスはもう既に開いており、中から出てきた大量の冊子が二人の頭上に降りかかった。