145.自分らしく
リィナ視点になります!
わたしは緊張していた。
それも今までにないくらいに。
(ただプレゼントを渡すだけなのに、なんでこんなに緊張しているのわたしは!)
高まる鼓動を必死に抑える。
わたしは今まで人に何かを贈った経験がない。
前に一度だけリーフレットの誕生日プレゼントを買おうと試みたことがあるけど、何をあげればいいかのか分からず、断念した。
ちなみに誕生日の日には毎年ご飯を奢っている。
だからこうしてなにか形になったモノを渡すのは初めてだった。
「あ、時計台のネオンの色が変わったよ! 確かあれって時間経過で変わるんだっけ?」
「うん……」
「リィナ……? さっきからどうしたの? 具合でも悪いの?」
「ち、違うの! そうじゃなくて……」
二人きりになった途端、わたしの緊張感はさらに膨れ上がった。
本人には口が裂けても言えないけど、今まで辛うじて耐えられていたのはユーグ先輩がそばにいてくれたから。
わたしにとっては緊張を解してくれる大きな存在だったのに……
(なんでいきなり二人きりにするのよ! あの表情からしてトイレとか絶対に嘘だし!)
先輩はトイレを理由にここから消えてしまった。
最後に意味深な笑みを見せて。
気を遣って退散してくれたのだろうけど、まだ心の準備ができてなかった。
でも先輩のことを責めることはできない。
わたしが緊張であたふたしている中で、先輩は上手い具合にプレゼントを渡せるような雰囲気を作ってくれた。
プレゼントを渡すまでの流れを少しでもやりやすくするために。
おかげで今、わたしも先輩に便乗する形でいけば自然にプレゼントを渡すことはできない
ここまでお膳立てしてくれたからには絶対に渡したい。
そう心の中では思っているのに……
身体が思うように動いてくれない。
緊張と受け取ってくれるのかという不安でわたしの精神はいつの間にか追い詰められていた。
ただ友人に、親友に感謝の気持ちを伝えたいだけなのに。
(ど、どうしたら……)
「……り、リィナ? 本当に大丈夫?」
リーフレットは心配してわたしの顔を覗きこんでくる。
このままじゃダメだ。
せっかくの先輩のお膳立てが無駄になる……そう思った時だ。
『……もし、心の準備が整わないようだったらマジックボックスの表面を見てみて』
先輩が去り際に小声で言っていた一言を思い出す。
わたしは景色に夢中のリーフレットに気付かれないように、そっとマジックボックスの表面を見る。
すると。
『いつも通りにやれば絶対に大丈夫。自分に素直に、大好きな友達を想いながら伝えれば、きっとリィナちゃんの想いは伝わるから。それでも緊張するなら、俺のことを思い出してほしい。いつも罵倒されている俺の姿をね』
貼られた張り紙にこう書かれていた。
(いつも罵倒されているって先輩が変なことばっかりするからじゃん……)
心の中でそう思いつつも、わたしは先輩の姿を思い返した。
変態で、チャラチャラしていて、女好きで。
何事も基本的にはできるけど、ボードゲームは壊滅的に弱くて。
でもたまに面白かったり、頼りになるところもあったりして。
思い出せば出すほど色々と出てくる。
面白いことも。
嫌な事も。
楽しいことも。
「ふふっ……」
思わず笑いが零れてしまった。
幸いなことにリーフレットに見られることはなかったけど、危なかった。
でもこの時、心の底から何かが湧き上がってくるような感じがした。
その何かは分からないけど、何となく心が軽くなったような……そんな気がした。
特に何の捻りもない一文だけど、わたしの心に大きな変化を与えてくれた。
笑ったからだろうか?
理由は分からない。
でも今ならいけそうな気がする。
今なら、本来の自分でリーフレットと向き合える。
「り、リーフレット! ちょ、ちょっといい?」
「え、うん。どうしたの?」
「そ、その……わたしもリーフレットに渡したいものがあって!」
景色を見るのを止め、彼女の視線はわたしの方にシフトする。
碧眼の綺麗な瞳に夜景の光が反射して、美しさがさらに際立っていた。
(いつも通りに、いつも通りに……)
そう心に念じる。
そしてアップテンポになる自身の鼓動を聞きながら、そっとマジックボックスを差し出した。




