144.助け舟
「ねぇ、リーフレットちゃん。あそこ見てよ!」
俺は二人の間に割り込むように入ると、とある方向を指さした。
「え、どこですか?」
「あそこだよ。時計台を越えてさらに向こうに光っている山があるでしょ?」
「あ、あぁ……あの山のことですか? 確か、フロウ山でしたっけ?」
流石はリーフレットちゃん。
正解である。
「その通り! じゃあ次の質問だけど、今リーフレットちゃんから見てあの山はどういう風に見える?」
「少し……光っているように見えますね」
「でしょ? 実はあれ、大気中に散らばる魔素の影響で光っているように見えるんだ。しかもあの景色を題材に逸話もあってね――」
王都の南西。
その奥にある山々も薄っすらと光を帯びていた。
他の人は目の前の街頭や家々の輝きに目を取られがちだが、フロウ山が光っているところを見られるのはかなり稀なのだ。
というのも元々あの辺はよく魔物やモンスターが根城にしている場所であるせいか、魔素が濃い地帯になっている。
そのせいで環境の変化で魔素が異常に濃くなる時があるのだ。
そしてその魔素が濃くなった時に見られるのが今俺たちが見ている光景。
これは知る人ぞ知る情報だが、フロウ山が光っている時にプロポーズをするとそのカップルは永遠に幸せになれると言われているのだ。
他にもプレゼントを上げると、一生仲の良い友人でいられるとか、色々な逸話が存在する。
「――という話があるんだ」
「は、初めて知りました……あの山にそんな逸話があったなんて」
「まぁ、あくまで逸話だけどね。でも俺はそういうの信じるタイプだから――」
そう言いながら、俺はスッと片手を彼女の前に差し出した。
「どうぞ、リーフレットちゃん」
手の平サイズのプレゼントを手渡す。
さっき皆に隠れてコッソリと買ったものだ。
「ユーグさん、これは……」
「俺からの感謝の印だよ。いつもありがとうってね」
「そんな……わたしは何も……」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない。それに、いつも頑張っている部下を労ってこそ上官としての顔も立つってものだからね」
「す、すみません。なんか気を遣わせてしまったみたいで……」
そういいつつ、ペコペコと謝ってくる。
どれだけマジメなんだ、この子は……
俺がまだ下っ端の頃に上官に飯を奢ってやると言われた時には「ホントっすか? じゃあ遠慮なくゴチになりやすッ!」って気を遣うところか無配慮極まりない感じだったというのに……
「とまぁ、そういうわけだから。あんまり深くは考えないで」
「あ、ありがとうございます。ユーグさん」
「いえいえ。じゃっ、次はリィナちゃんの番だね」
「へっ……?」
唐突に話を振られるリィナちゃんはキョトンをした目で俺を見てくる。
いつものキリッとした感じが一切ない、らしくない目だ。
だが俺は何も言わずにぬいぐるみの入ったマジックボックスをリーフレットちゃんにバレないようにそっと手渡した。
そして……
「あ、ごめん。ちょっとお手洗いに行ってくるよ。すぐに戻るね」
「は、はい。分かりました」
俺はリィナちゃんにマジックボックスを渡すなり、退散を図る。
最後に意味深なアイコンタクトをリィナちゃんに取りながら。
リィナちゃんも去り際に見せたアイコンタクトの意図に気付いたか、少し睨むように俺を見てくる。
いつものようにキリッとした彼女らしい瞳だ。
流れはこれで作ったはず。
あとは彼女次第だ。
(頑張れよ、リィナちゃん!)
俺はそう心の中で応援しながらも、静かにその場を去るのだった。