143.クール乙女は緊張を隠せない
場所は変わって、施設の屋上へとやってきた。
この商業施設には最上階に展望デッキが備わっており、360°王都の街を一望できる場所となっている。
しかも展望デッキの構造上、視界を阻害するものが一切ないからか、全域に渡って夜景を眺めることができるので王都でも有名な観光場所の一つになっている。
またここは王都でも指折りのデートスポットになっている。
なので見渡す限りのカップルたちがイチャイチャと身を寄せていた。
「綺麗だねぇ~」
「うん。今まで遠征で色んなところに行ってきたけど、未だに王都の夜景に勝るものはないわ」
「俺もここの夜景だけはどこの絶景スポットよりも一番綺麗だと思うよ」
時間もちょうど夜景が綺麗なホットタイムだからか、人の数もそれなりに多い。
独り身の人間からしたらいるだけでも息苦しくなりそうな空間だ。
だが最高に美しい夜景をじっと見ている内にいつの間にかそんなことなど、頭からスッパリと消えていた。
「それで、リィナ。わたしに用がって言っていたけど、どうしたの?」
「え、えっと……」
さっきまで仲良く喋っていたが、本題に話を振られた途端に口数が減るリィナちゃん。
身体をモジモジとさせ、目線すら合わせずに黙り込んでしまう。
(あらら……相当緊張しているな、こりゃ……)
俺と関わる時には絶対に見せないような姿を見せていた。
恥じらいなのか頬を染めるクール乙女。
その表情はいつものリィナちゃんとは変わって可愛らしく、自分に向けられたらと想像するとドキドキしてしまうほど。
まぁ現時点では、そうなることはないだろうけど。
「ん……? リィナ……?」
リーフレットちゃんは中々口を開かないリィナちゃんに問いかける。
しかしリィナちゃんは固まったまま、動く気配がない。
多分、緊張で先の言葉が出ないのだろう。
人というのは極度に緊張すると、無口になるものだ。
今まで色んな人と触れ合ってきたし、俺も昔はそうだったからよく分かる。
まだ勇者軍に入る前の話だけどね。
でもこのままじゃ、恐らく先へは進めない。
珍しくリィナちゃんが自分の足で歩けない今、ここで俺が動かないと。
その為に俺は今の今までリィナちゃんと共に行動してきたのだから。
しかもこれは俺にとって初めて彼女から本気でお願いされたことだ。
初めて俺を頼ってくれた記念すべき出来事なのだ。
ここは彼女のためにも、何が何でも成功させてあげたい。
あとで恨まれたり、余計なお世話だと言われるかもしれないけど……
(ここはリィナちゃんの為に一肌脱ごう!)
今まで色々な人との付き合いで身に着けた会話術で。
それにちょうど一つ、いいネタを見つけることが出来たしな。
俺はそう心に決めると、二人の間にスッと入り込み、いつもの調子で喋り出すのだった。




