142.デート? それとも……
「へぇ~二人も買い物に来てたんだ。なんか珍しいね」
「ま、まぁ……色々あってね。ね、リィナちゃん」
「はい。残念ながら」
「残念とか言わないで……」
あの後。
俺たちは近くのカフェに入り、歓談の時間を過ごしていた。
アドバイス要員として招集されたらしいシオンは急用ができたとのことで先に帰り、俺を含む四人がこの場に残った。
何をしに来たんだ、アイツは……。
とまぁそれはさておき。
俺の隣には謎の男がいて、リーフレットちゃんとリィナちゃんはテーブルを挟んで向かいの席に座っている。
ちなみに俺たちがあの場にいた本当のことはみんなには話さないことにした。
これはリィナちゃんとの協議の末に決めたことだ。
協議と言ってもほぼリィナちゃんの意見に沿う形になったが。
理由は下手に話すとややこしくなりそうだから、とのことだ。
考えてみれば俺たちはストーカーをしようとしていたわけじゃないしな。
ただ人にプレゼントを上げるだけだったはずが、こんなことになってしまったわけで……
「ところでリーフレット、この方はどちらさまで?」
早速リィナちゃんがシオンの隣に座る男の正体を聞き出し始める。
彼の顔をじーっと見ながら。
「あ、紹介が遅れました。彼はわたしが受け持っている育成組の一人で、レイトくんです」
「れ、レイトです! 宜しくお願いします!」
若き青年は少し緊張気味に自己紹介を済ませると、
「はい、よろしく」
リィナちゃんも軽く礼をしながら挨拶をする。
が、それは俺に向けられるものよりずっとドライな返答だった。
(リィナちゃん怖い、顔怖いよ!)
別に俺に向けられているわけじゃないのに妙な威圧感で思わず身震いしてしまう。
ちなみに当の本人はさっきから緊張しっぱなしで、当然リィナちゃんの威圧にもビクついていた。
そりゃそうだ。
今目の前にいるのは組織の大先輩であり、S級勇者。
そしていきなりワケの分からない怖い視線を向けられたら、誰だってこうなる。
可哀想に……
「で、お二人はこんなところで何をされていたんですか?」
しかし冷徹な娯楽女王はそんなことなど、お構いなしに話を進めると。
「そ、その……ご相談を受けてもらっていたんです、リーフレット教官に」
まさかのレイトくんが先に口を開いた。
「相談ですか?」
「は、はい……」
「それはどんな相談で?」
「そ、それは……」
容赦なく次の質問を叩きつけるリィナちゃん。
警戒するのはいいけど、ここまで徹底的にするとは……
過去に色々あったって言っていたけど、相当ヤバイことだったんだろうな。
「り、リィナ。ちょっとそれは彼のプライバシーに関わることだし――」
「いえ教官! 僕なら大丈夫です! お話します」
リーフレットちゃんが止めようとした時、レイトくんがそれを遮る。
多分彼はリィナちゃんを見て察したのだろう。
これは言わないといけない雰囲気だと。
でもそれが正解だ。
警戒したリィナちゃんを完全に止めるには洗いざらい話すしかない。
俺も付き合っていく中でそれを学んだ。
レイトくんは深呼吸し、息を整えると、再び喋り始めた。
「じ、実は僕……好きな人がいるんです。でも自分ではどうすればいいか分からなくて、悩んでいたところに教官が声をかけてくださって、それから色々と悩みを聞いてもらったりしていたんです」
「恋の悩みってやつだね」
「はい。でも自分、今まで告白とか全くしたことなくて……というかむしろ異性の人と関わることすらもあまり出来ていない状態で。そのせいで鍛錬に集中できない日が続いてたんです」
なるほど。
それでリーフレットちゃんが気にかけて声をかけたところ、そういう事実が判明したと。
面倒見の良いリーフレットちゃんなら、放っておけないだろうし。
「じゃあ、ここに買い物に来たのはその悩みを解決するためってことかな?」
「そうです。まずは身なりから整えてみようかって話になって、教官と買い物に行くことになったんです」
「なるほどね」
ということはデートではなく、相談を受けての行動だったというわけか。
リィナちゃんもこの話を聞いて、ホッとしたのか強張っていた表情が次第に柔らかくなっていた。
「レイトくんは前々から鍛錬をすごい頑張る子だったから、心配だったの。いきなり訓練に来なくなったりしたから……」
「本当にすみませんでした、教官。ご心配をおかけしてしまって……」
「ううん、大丈夫よ。悩んでいる時は誰だって他のことを考えられなくなるもの」
リーフレットちゃんは微笑みながら、優しい口調で彼を励ます。
なんかこの会話を聞くと、申し訳なく思えてくる。
変に警戒して、敵意をむき出しにして。
(ごめんよ、レイトくん……)
心の中で謝っておく。
リィナちゃんも流石に申し訳ないと思ったのか、
「ごめんなさい、レイトさん。いきなり圧をかけるようなことをしてしまって……」
しっかりと謝罪をする。
それから俺たちはレイトくんの恋をより良い方向へと導くべく、相談をした。
俺もいくつか意見を出し、その後の買い物にも同行することになった。
そして粗方全てが片付いた時にはもう外は真っ暗になっていた。
「今日はわざわざ僕の為にありがとうございました。この御恩はいつかお返しさせていただきます」
「頑張れよ、レイトくん。恋は気合いだ!」
「は、はい! 頑張ります! それでは!」
レイトくんは最後にペコリとお辞儀をすると、背を向けてスタスタと帰っていった。
「う~ん、青春だな~」
「告白、成功するといいですね」
「そうだね」
「だね~」
三人でその後ろ姿を見守る。
「さてと、わたしもそろそろ本部に帰らないと。まだ雑務が――」
「あ、あの……リーフレット!」
伸びをするリーフレットちゃんにリィナちゃんが声を張り上げ、遮る。
「ん、なにリィナ?」
「こ、この後……時間ある?」
緊張していたのか。
少し掠れたような声で、リィナちゃんはそう言った。